痛覚過敏とは
痛覚過敏とは、通常であれば軽い痛み刺激に対して、過剰に強い痛みを感じる状態です。英語では hyperalgesia と呼ばれます。
ポイントは、異痛症(allodynia:本来痛みを感じない刺激で痛みを感じる)とは区別して考えることです。痛覚過敏は「痛い刺激がより痛い」のに対し、異痛症は「痛くない刺激が痛い」という違いがあります。痛覚過敏は、末梢性感作(peripheral sensitization)と中枢性感作(central sensitization)の両方のメカニズムで生じます。つまり「痛みに敏感になっている」とは、神経系の過敏状態を反映している重要な所見です。
どこでみるのか
整形外科、ペインクリニック、リハビリテーション科、神経内科、慢性疼痛外来でよくみます。患者さんの訴えとしては、「軽く触っただけで激痛」「いつもより痛みが強い」「痛みが広がっている」「動くと異常に痛い」「服が触れるだけで痛い」「マッサージが耐えられない」といった形で出会うことがあります。
また、外傷後、術後、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、線維筋痛症、慢性腰痛、変形性関節症、神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛などでは、痛覚過敏の評価と管理が重要です。特に、急性痛が慢性化する過程では、中枢性感作による痛覚過敏が大きな役割を果たします。
何をみているのか
痛覚過敏でみているのは、単に「痛みが強い」だけでなく、神経系の感作状態、末梢性か中枢性か、痛みの時間的・空間的広がり、機能的影響、心理社会的要因です。機械的痛覚過敏(圧痛)、温熱性痛覚過敏(熱・冷刺激)、化学的痛覚過敏などがあり、評価方法も異なります。
そのため、評価では「どの刺激で過敏か」「痛みの範囲はどこまでか」「一次性か二次性か」「中枢性感作の兆候はあるか」「日常生活への影響はどうか」を多角的にみることが重要です。ここを見逃すと、単なる局所治療に終始し、中枢性感作への対応が遅れます。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、疼痛の発症時期、部位、性質、増悪因子、軽減因子、日常生活への影響を問診します。そのうえで、圧痛閾値(PPT: pressure pain threshold)、触診での過敏反応、痛みの広がり(一次性/二次性痛覚過敏)、中枢性感作の兆候(広範囲痛、疲労、睡眠障害、認知機能低下)を確認します。
痛覚過敏は、局所の炎症や組織損傷による一次性痛覚過敏(損傷部位周囲)と、中枢神経系の過敏化による二次性痛覚過敏(損傷部位から離れた部位)に分けられます。中枢性感作が強いほど、広範囲に痛覚過敏が広がり、慢性化しやすくなります。つまり、痛みの範囲と性質を見極めることが臨床上のコツです。
評価で何をみるか
- 圧痛閾値(PPT)の測定(アルゴメーター使用)
- 触診での過敏反応、疼痛誘発点
- 痛みの範囲と広がり(一次性/二次性痛覚過敏)
- 温熱性痛覚過敏(熱刺激・冷刺激への反応)
- 中枢性感作の評価(CSI: Central Sensitization Inventory)
- 痛みの性質(灼熱痛、電撃痛、ズキズキ、鈍痛)
- 痛みの時間的変化(持続痛、間欠痛、増悪パターン)
- 機能的影響(ADL、歩行、運動制限)
- 心理的要因(不安、抑うつ、破局的思考)
- 睡眠障害、疲労感の有無
- 自律神経症状(発汗、皮膚色調変化、浮腫)
- 定量的感覚検査(QST: Quantitative Sensory Testing)(専門施設)
臨床でよく出る問題
- 軽い触診やマッサージが耐えられない
- 運動療法が痛みで進められない
- 痛みが広範囲に広がる
- 日常生活動作が痛みで制限される
- 服や靴が触れるだけで痛い
- 睡眠障害、疲労感が続く
- 痛みへの恐怖・回避行動が強まる
- 治療効果が乏しい、改善が遅い
- 心理的苦痛が増大する
- 慢性疼痛へ移行する
痛覚過敏は、単なる「痛みが強い」だけでなく、機能障害、心理的苦痛、社会参加制限を引き起こします。だからこそ、早期発見と包括的な疼痛管理が必要です。
起こりやすい要因
痛覚過敏は、末梢性感作と中枢性感作の両方によって起こります。代表的な要因は次の通りです。
- 末梢性要因:組織損傷、炎症、外傷、術後、熱傷
- 神経損傷、神経障害性疼痛
- 中枢性感作:反復的な侵害刺激、慢性疼痛
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
- 線維筋痛症
- 慢性腰痛、頚部痛
- 変形性関節症
- 帯状疱疹後神経痛
- 心理社会的要因:不安、抑うつ、破局的思考、恐怖回避
- 睡眠障害、ストレス
- オピオイド誘発性痛覚過敏(長期使用)
たとえば、急性期の炎症では末梢性感作による一次性痛覚過敏が主体ですが、痛みが長引くと中枢性感作が生じ、二次性痛覚過敏や広範囲の痛みが出現します。つまり「急性から慢性への移行期に中枢性感作が起こる」ことが臨床的に重要です。
注意したい症状
- 急速に痛みが拡大し、全身に広がる
- 著明な自律神経症状(発汗、皮膚色調変化、浮腫)
- 運動機能の著しい低下
- 強い不安、抑うつ、自殺念慮
- 日常生活が全くできない
- オピオイド使用量の急増
- 感覚障害の急速な進行
- 筋萎縮、関節拘縮の進行
- 社会的孤立、就労困難
- CRPS type Iの疑い(外傷後、著明な痛覚過敏)
このような場合は、単なる痛覚過敏だけでなく、CRPS、重度の中枢性感作、精神疾患の合併、オピオイド誘発性痛覚過敏などを考える必要があります。特に機能障害が進行している場合は、ペインクリニック、精神科、集学的疼痛治療チームへの紹介が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず末梢性感作か中枢性感作かを見分け、多角的な疼痛管理を行うことです。局所治療だけでなく、中枢性感作への対応、心理社会的介入が中心になります。
- 急性期:組織保護、炎症管理、適切な鎮痛
- 薬物療法:NSAIDs、プレガバリン、デュロキセチン、三環系抗うつ薬
- 段階的な運動療法(graded exposure)
- 疼痛教育(pain neuroscience education)
- 認知行動療法(CBT)、マインドフルネス
- 徒手療法(優しく、段階的に)
- 物理療法(温熱、寒冷、TENS)
- 脱感作訓練(desensitization)
- ミラーセラピー、運動イメージ療法(CRPS)
- 睡眠改善、ストレス管理
- 恐怖回避行動の修正
- 必要に応じた神経ブロック、脊髄刺激療法
リハビリでは、「痛みを避ける」ではなく「段階的に慣らす」アプローチが重要です。中枢性感作では、刺激量の調整、疼痛教育、心理的介入が効果的です。
リハビリの視点
リハビリでは、痛覚過敏を「どう脱感作するか」「どう中枢性感作を改善するか」「どう機能回復につなげるか」という視点が重要です。痛覚過敏は神経系の可塑的変化であり、適切な介入で改善可能です。
急性期の末梢性感作では、組織保護と炎症管理が優先されますが、中枢性感作が生じた慢性期では、疼痛教育、段階的な運動療法、認知行動療法が中心となります。患者に「痛み=組織損傷ではない」「神経系の過敏状態である」ことを理解してもらうことが、恐怖回避行動の修正と活動性向上につながります。
また、痛覚過敏の評価は、治療効果判定にも重要です。圧痛閾値の改善、痛みの範囲縮小、機能改善を経時的に追うことで、介入の効果を客観的に示すことができます。
ひとことで言うと
痛覚過敏とは、通常の痛み刺激に対して過剰に強い痛みを感じる状態で、末梢性・中枢性感作による神経系の過敏化を反映します。
関連用語
- 異痛症(allodynia)
- 末梢性感作(peripheral sensitization)
- 中枢性感作(central sensitization)
- 一次性痛覚過敏
- 二次性痛覚過敏
- 圧痛閾値(PPT)
- 定量的感覚検査(QST)
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
- 線維筋痛症
- 神経障害性疼痛
- 疼痛教育
- 脱感作訓練
参考文献
- PMC: Pain Management and Rehabilitation for Central Sensitization
- PMC: A Mechanism-Based Approach to Physical Therapist Management of Pain
- Cleveland Clinic: Hyperalgesia: What It Is, Causes, Symptoms & Treatment
- J-STAGE: 中枢性感作の評価
- SAGE Journals: Role of non-invasive objective markers for the rehabilitative assessment
- MedBridge: Assessment Strategies for Chronic Pain and Central Sensitization
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