高血圧とは
高血圧(Hypertension) は、診察室血圧が収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上の状態が持続する疾患です。日本国内の患者数は約4,300万人と推定され、成人の約2人に1人が該当する国民病です。高血圧は長期間放置すると血管内皮障害・動脈硬化を進行させ、脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全・大動脈解離などの重篤な心血管疾患を引き起こします。特に重要なのは、高血圧の約50~60%が無症状であるため「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれ、健診や偶然の機会に発見されることが多い点です。高血圧は一次性高血圧(本態性高血圧、全体の90~95%)と二次性高血圧(原因疾患が特定できるもの、5~10%)に分類されます。降圧治療により収縮期血圧10 mmHg低下で脳卒中リスク30~40%減少、心筋梗塞リスク20~25%減少、総死亡率10~15%減少することが大規模臨床試験で証明されており、早期発見・早期治療・継続管理が極めて重要です。
どこでみるのか
高血圧は一般内科外来、循環器内科外来、健診センター、特定保健指導、脳卒中病棟、心不全病棟、腎臓内科外来、糖尿病外来、産科(妊娠高血圧)など多様な場で遭遇します。健診では「血圧が高めと言われた」「140/90以上で要精査」という指摘がきっかけとなります。外来では「頭痛が続く」「めまいがする」「動悸がする」「健診で毎年高いと言われる」「親が脳卒中だったので心配」という訴えで受診します。救急外来では「突然の激しい頭痛」(高血圧性脳症・脳出血)、「胸背部の引き裂かれるような痛み」(大動脈解離)、「呼吸困難」(急性心不全)、「突然の片麻痺」(脳梗塞・脳出血)として緊急搬送されることもあります。また、糖尿病・脂質異常症・慢性腎臓病の治療中に高血圧が合併・悪化することも多く、複合的リスク管理が必要です。
何をみているのか
高血圧の評価では、血圧値の正確な測定と分類、臓器障害(心・脳・腎・血管・眼底)の有無、心血管リスク因子の集積、二次性高血圧の除外、生活習慣要因の把握を包括的に行います。診察室血圧だけでなく、家庭血圧測定(朝・夜2回ずつ)や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)により白衣高血圧・仮面高血圧を鑑別します。臓器障害評価では心電図・心エコー(左室肥大)、頸動脈エコー(IMT≥1.1 mm)、眼底検査(高血圧性網膜症)、尿検査(蛋白尿・血尿)、腎機能(eGFR、Cr)、胸部X線(心拡大)を実施します。リスク因子は年齢(男性≥45歳、女性≥55歳)、喫煙、脂質異常症、糖尿病、肥満(BMI≥25)、メタボリックシンドローム、早発性心血管疾患家族歴を評価します。二次性高血圧のスクリーニングでは、若年発症(<30歳)、急激な悪化、治療抵抗性(3剤併用でも目標未達)、低カリウム血症の有無を確認し、必要に応じて内分泌検査・画像検査を追加します。
臨床でどうみるか
高血圧の診断は複数回の血圧測定で確定します。診察室血圧は座位安静5分後に上腕で測定し、初診時は両腕測定(左右差≥15 mmHgは血管狭窄疑い)を行います。2回測定して平均値を採用し、異なる日に2~3回測定して140/90 mmHg以上を確認します。家庭血圧は起床後1時間以内(排尿後、朝食・服薬前)と就寝前に各2回測定し、5~7日間の平均値が135/85 mmHg以上で高血圧と診断します。家庭血圧は診察室血圧より予後予測能が高く、治療方針決定に重要です。血圧分類は、正常血圧(<120/80 mmHg)、正常高値血圧(120~129/<80 mmHg)、高値血圧(130~139/80~89 mmHg)、I度高血圧(140~159/90~99 mmHg)、II度高血圧(160~179/100~109 mmHg)、III度高血圧(≥180/≥110 mmHg)、(孤立性)収縮期高血圧(≥140/<90 mmHg)に分類されます。臓器障害評価では、心電図でSokolow‑Lyon基準(SV₁+RV₅or₆≥35 mm)やCornell基準で左室肥大を判定し、心エコーで左室心筋重量係数(LVMI)男性≥125 g/m²、女性≥120 g/m²を確認します。頸動脈エコーでIMT≥1.1 mmまたはプラーク、眼底でKW分類II度以上、尿アルブミン/Cr比≥30 mg/gCr、eGFR<60 mL/min/1.73m²で臓器障害ありと判断します。
評価で何をみるか
高血圧の包括的評価では血圧レベル・臓器障害・リスク因子を統合し、心血管リスクを層別化して治療強度を決定します。
- 診察室血圧分類 - 正常血圧<120/80 mmHg、正常高値120~129/<80 mmHg、高値130~139/80~89 mmHg、I度140~159/90~99 mmHg、II度160~179/100~109 mmHg、III度≥180/≥110 mmHg
- 家庭血圧基準 - <135/85 mmHg正常、≥135/85 mmHg高血圧。診察室血圧より予後予測能高く、140/90 mmHgより5 mmHg低い基準
- 降圧目標 - 一般成人<130/80 mmHg、75歳以上<140/90 mmHg、糖尿病・CKD・冠動脈疾患・脳血管疾患・PAD合併例<130/80 mmHg、蛋白尿≥1 g/日は<125/75 mmHg
- 臓器障害マーカー - 心電図左室肥大(Sokolow≥35 mm、Cornell voltage男性>2.8 mV・女性>2.0 mV)、LVMI男性≥125 g/m²・女性≥120 g/m²、頸動脈IMT≥1.1 mm、尿アルブミン/Cr比30~299 mg/gCr(微量アルブミン尿)、≥300 mg/gCr(顕性蛋白尿)、eGFR 45~59(CKD G3a)・30~44(G3b)・15~29(G4)・<15(G5)mL/min/1.73m²
- 心血管リスク層別化 - 低リスク(I度高血圧+危険因子0)、中等リスク(I~II度+危険因子1~2個)、高リスク(III度、または臓器障害あり、または危険因子3個以上、または糖尿病・CKD・心血管疾患既往)。高リスクは直ちに薬物療法開始
- 脈圧 - 収縮期血圧‑拡張期血圧。≥60 mmHgで動脈硬化進行、心血管イベントリスク増大
- 二次性高血圧スクリーニング指標 - 若年発症<30歳、治療抵抗性(3剤併用でも目標未達)、血漿K<3.5 mEq/L、血漿レニン活性・アルドステロン比(ARR)>200、eGFR急速低下、腹部血管雑音
これらの評価により、生活習慣改善のみで経過観察可能か、直ちに薬物療法開始すべきか、二次性高血圧精査が必要かを判断します。
臨床でよく出る問題
高血圧患者では無症状期から合併症発症まで多段階の問題が出現し、長期的視点での管理が必要です。
- 無症状での放置・治療中断 - 自覚症状がないため受診・服薬を中断する例が約30~50%。中断後3~6か月で血圧再上昇し、心血管イベントリスク3~5倍増加
- 白衣高血圧・仮面高血圧 - 白衣高血圧(診察室≥140/90 mmHg、家庭<135/85 mmHg)は約15~20%、仮面高血圧(診察室<140/90 mmHg、家庭≥135/85 mmHg)は約10~15%存在。後者は真の高血圧と同等のリスクだが見逃されやすい
- 脳心血管疾患発症 - 高血圧は脳卒中の最大原因(寄与危険度約35~40%)。収縮期血圧20 mmHg上昇ごとに脳卒中リスク2倍、心筋梗塞リスク1.5倍増加
- 臓器障害進行 - 左室肥大→拡張不全→収縮不全の進行、腎硬化症によるeGFR低下(年1~2 mL/min低下、未治療では3~5 mL/min低下)
- 治療抵抗性高血圧 - 適切な3剤併用(利尿薬含む)でも目標未達の例が約10~15%。二次性高血圧(原発性アルドステロン症5~10%、腎血管性1~2%、睡眠時無呼吸症候群)の除外が必要
- 降圧薬副作用 - ACE阻害薬の空咳(5~15%)、Ca拮抗薬の浮腫(5~10%)、β遮断薬の徐脈・倦怠感、利尿薬の低K血症・高尿酸血症により服薬中断
- 多剤併用による服薬負担 - 糖尿病・脂質異常症合併例では1日5~10剤服用となり、アドヒアランス低下・薬剤費負担増大
- 高齢者の起立性低血圧・転倒 - 過度の降圧により起立時収縮期血圧が20 mmHg以上低下し、転倒・骨折リスク増大
これらの問題は相互に関連し、無症状→治療中断→臓器障害進行→脳卒中→寝たきり・認知症という負の連鎖を形成するため、早期介入と継続的服薬支援が重要です。
起こりやすい要因
高血圧の発症・進展には遺伝的素因と環境要因が複合的に関与します。
- 遺伝的素因 - 両親とも高血圧の場合、子の発症リスク約50~60%。片親のみ約30~40%。多数の遺伝子多型が関与する多因子疾患
- 食塩過剰摂取 - 日本人平均10~11 g/日(目標<6 g/日)。食塩1 g増加で収縮期血圧約1 mmHg上昇。食塩感受性が高い例(約50%)はより顕著
- 肥満 - BMI≥25で高血圧リスク2~3倍。体重1 kg増加で血圧約1 mmHg上昇、10 kg減量で収縮期血圧5~10 mmHg低下
- 運動不足 - 座位時間≥8時間/日、運動<150分/週で発症リスク1.5~2倍。有酸素運動により収縮期血圧5~7 mmHg低下
- 過度飲酒 - 純アルコール≥30 g/日(男性)、≥20 g/日(女性)で血圧上昇。60 g/日以上で収縮期血圧5~10 mmHg上昇
- 喫煙 - 1本で血圧15~20 mmHg一過性上昇、動脈硬化促進、降圧薬効果減弱。禁煙により心血管リスク2年で50%低下
- ストレス・睡眠不足 - 慢性ストレスで交感神経活性化→血圧上昇。睡眠<6時間/日で高血圧リスク1.5~2倍
- 加齢 - 動脈硬化による血管弾性低下で収縮期血圧上昇。50歳以降、年齢10歳増加で収縮期血圧約5~10 mmHg上昇
- 慢性腎臓病 - eGFR<60で高血圧有病率約70~80%。腎機能低下→体液貯留・レニン‑アンジオテンシン系亢進→血圧上昇の悪循環
- 内分泌疾患 - 原発性アルドステロン症(治療抵抗性の5~10%)、褐色細胞腫、クッシング症候群、甲状腺機能異常
修正可能因子(減塩・減量・運動・節酒・禁煙・ストレス管理)への介入により、薬物療法なしで血圧10~20 mmHg低下が期待でき、降圧薬の減量・中止も可能です。
注意したい症状
高血圧では高血圧緊急症・臓器障害進行・二次性高血圧の早期発見が重要です。
- 激しい頭痛・嘔吐・意識障害 - 高血圧性脳症(血圧≥180/120 mmHg+脳浮腫)。1時間以内に収縮期血圧を25%低下させる緊急降圧が必要
- 胸背部の引き裂かれるような激痛 - 急性大動脈解離(死亡率24時間以内20~30%)。収縮期血圧<120 mmHgへ緊急降圧+外科的治療
- 突然の片麻痺・構音障害・失語 - 脳出血・脳梗塞。収縮期血圧≥220 mmHgは出血リスク、ただし急性期の過度降圧は脳血流悪化させるため慎重に
- 呼吸困難・起座呼吸・ピンク色泡沫状痰 - 急性心不全・肺水腫。利尿薬・血管拡張薬・降圧薬で前負荷・後負荷軽減
- 突然の激しい胸痛・冷汗 - 急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症)。高血圧は心筋酸素需要増大・冠血流低下で虚血誘発
- 視力低下・視野障害・飛蚊症 - 高血圧性網膜症KW III~IV度(出血・軟性白斑・乳頭浮腫)。急速な血圧上昇で網膜中心動脈閉塞症リスク
- 発作性の動悸・頭痛・発汗・蒼白 - 褐色細胞腫発作。カテコラミン過剰分泌で血圧≥200/≥120 mmHgへ急上昇
- 筋力低下・多尿・便秘 - 原発性アルドステロン症の低K血症(血漿K<3.5 mEq/L)。治療抵抗性高血圧の約5~10%
- 体重増加・浮腫・尿量減少 - 急性腎不全・ネフローゼ症候群。体液貯留により血圧急上昇
これらの症状は時間依存性の緊急対応を要するか、二次性高血圧の手がかりとなるため、患者・家族への教育と医療連携が不可欠です。
対応の基本
高血圧の管理は生活習慣改善と薬物療法を組み合わせ、臓器障害進行を阻止します。
- 生活習慣改善(第一選択、全例必須) - 減塩<6 g/日(味噌汁1杯+梅干し1個で約3 g)で収縮期血圧4~6 mmHg低下、減量(BMI 22目標、5 kg減量で4~5 mmHg低下)、DASH食(野菜・果物・低脂肪乳製品・全粒穀物・魚・ナッツ増、飽和脂肪酸・赤肉・甘味飲料減で8~14 mmHg低下)、有酸素運動(中強度30分×週5~7日、または累積150分/週で5~7 mmHg低下)、節酒(純アルコール男性<20~30 g/日、女性<10~20 g/日で2~4 mmHg低下)、禁煙必須
- 薬物療法開始基準 - I度高血圧+高リスク(臓器障害・糖尿病・CKD・心血管疾患既往)は直ちに開始、中等リスクは3か月生活習慣改善後も目標未達なら開始、低リスクは6か月経過観察。II度以上は原則直ちに開始
- 第一選択薬(単剤または2剤併用) - Ca拮抗薬(アムロジピン5~10 mg/日、ニフェジピンCR 20~40 mg/日)、ARB(オルメサルタン20~40 mg/日、テルミサルタン40~80 mg/日)、ACE阻害薬(エナラプリル5~10 mg/日、ペリンドプリル4~8 mg/日)、利尿薬(ヒドロクロロチアジド12.5~25 mg/日、トリクロルメチアジド1~2 mg/日)。若年・糖尿病・CKD・心不全はARB/ACE優先、高齢者・脳血管障害既往はCa拮抗薬優先
- 2剤併用の組み合わせ - ARB/ACE+Ca拮抗薬、ARB/ACE+利尿薬、Ca拮抗薬+利尿薬が推奨。配合剤(1錠に2成分)でアドヒアランス向上
- 3剤併用 - ARB/ACE+Ca拮抗薬+利尿薬。目標未達なら抗アルドステロン薬(スピロノラクトン25~50 mg/日、エプレレノン50~100 mg/日)追加
- 降圧速度 - 原則として3~6か月かけて目標達成。急速降圧は臓器血流低下リスク。高齢者・脳血管障害既往は特に慎重に
- 家庭血圧測定指導 - 朝(起床後1時間以内、排尿後、朝食・服薬前)と夜(就寝前)に各2回測定、週5~7日、平均値を記録。135/85 mmHg未満を目標
- 二次性高血圧精査 - 治療抵抗性(3剤併用でも目標未達)、若年発症<30歳、急激悪化、低K血症合併例は、血漿レニン活性・アルドステロン、尿中メタネフリン、腎動脈エコー/CT、睡眠時無呼吸検査を実施
- 定期フォローアップ - 治療開始後1~2か月ごと、安定後3~6か月ごと。血圧・心拍数・体重、血液検査(電解質・腎機能・血糖・脂質)年1~2回、心電図・尿検査年1回、心エコー・頸動脈エコー2~3年ごと
適切な管理により、収縮期血圧10 mmHg低下で脳卒中30~40%減少、心筋梗塞20~25%減少、心不全50%減少、総死亡10~15%減少が達成できます。
ひとことで言うと
高血圧は診察室血圧140/90 mmHg以上または家庭血圧135/85 mmHg以上の状態で、無症状のまま脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全を引き起こす「サイレントキラー」です。減塩<6 g/日・減量・運動週150分・節酒・禁煙の生活習慣改善と、ARB/ACE阻害薬・Ca拮抗薬・利尿薬による薬物療法で目標<130/80 mmHgを達成し、収縮期血圧10 mmHg低下により脳卒中リスクを30~40%減少させることができます。
関連用語
- 本態性高血圧
- 二次性高血圧
- 白衣高血圧
- 仮面高血圧
- 高血圧緊急症
- 臓器障害
- 左室肥大
- 動脈硬化
- 脳卒中
- 心筋梗塞
- 心不全
- 慢性腎臓病
- 降圧薬
- 家庭血圧測定
参考文献・出典
関連記事
- 脳卒中の病態と予防
- 心筋梗塞の危険因子と管理
- 心不全と高血圧の関係
- 慢性腎臓病と高血圧の悪循環
- 原発性アルドステロン症の診断
- 降圧薬の種類と使い分け
- 家庭血圧測定の実際
- 減塩食の具体的方法
用語集へ戻る
『こ』用語集へ戻る