夜間せん妄とは
夜間せん妄とは、夕方から夜間にかけて急激に発症または増悪する意識障害の一種で、見当識障害、幻覚、興奮、不穏などの精神症状が出現する状態です。日中は比較的落ち着いているが、日没後に症状が顕著になることから「夕暮れ症候群(サンダウン症候群)」とも呼ばれます。高齢者、特に認知症患者や術後患者に多く見られ、入院環境下では頻度が高まります。概日リズムの乱れ、感覚遮断、身体的不快感などが複合的に作用して発症すると考えられています。
どこでみるのか
- 急性期病院の一般病棟・集中治療室(ICU)
- 回復期リハビリテーション病棟
- 地域包括ケア病棟
- 療養型病院
- 介護老人保健施設・特別養護老人ホーム
- 在宅医療・訪問リハビリテーションの現場
- 手術後の病室
- 認知症病棟・精神科病棟
何をみているのか
- 意識レベルの日内変動(夕方から夜間にかけての変化)
- 見当識障害(日時・場所・人物の認識)
- 幻覚・妄想の有無と内容
- 興奮・不穏行動の出現パターン
- 睡眠-覚醒リズムの乱れ
- 注意力・集中力の低下
- 身体的不快感(疼痛、排泄、発熱など)
- 環境要因(照明、騒音、人的環境)
- 薬剤の影響(抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系など)
- 脱水・電解質異常の有無
臨床でどうみるか
- 問診:発症時刻、症状の日内変動、既往歴(認知症、精神疾患)、服薬内容、手術歴、入院前の生活リズム
- 観察:表情、視線の動き、落ち着きのなさ、徘徊行動、独語、易刺激性
- バイタルサイン測定:発熱、血圧、脈拍、SpO₂の確認
- 血液検査データ:電解質、血糖値、腎機能、炎症反応(CRP、WBC)
- 画像検査:頭部CT・MRIによる器質的疾患の除外
- 排泄状況の確認:便秘、尿閉、膀胱留置カテーテルの有無
- 疼痛評価:非言語的サイン(表情、体動)の観察
- 環境評価:照明の明るさ、騒音レベル、時計やカレンダーの有無
評価で何をみるか
- NEECHAM混乱・錯乱スケール(意識レベル、行動、生理学的測定の統合評価)
- CAM(Confusion Assessment Method)による診断基準
- DRS-R-98(Delirium Rating Scale-Revised-98)
- ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)
- Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)
- DSM-5によるせん妄診断基準の確認
- 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- Mini-Mental State Examination(MMSE)
- 睡眠日誌・アクチグラフによる睡眠パターン評価
- バーセルインデックス(ADL能力)
- 疼痛スケール(NRS、フェイススケール)
- 栄養状態評価(MNA-SF、血清アルブミン値)
- 服薬内容の確認(せん妄リスク薬剤のチェック)
- 家族からの情報聴取(普段の様子との違い)
臨床でよく出る問題
- 夜間の徘徊・転倒リスクの増大
- 点滴・ドレーン類の自己抜去
- 興奮による介護抵抗・暴力行為
- リハビリテーションプログラムの中断
- 睡眠-覚醒リズムの逆転
- 脱水・低栄養の進行
- 家族の介護負担・精神的疲弊
- 入院期間の延長
- 身体拘束の実施による廃用症候群の進行
- 認知機能の持続的低下
起こりやすい要因
- 高齢(75歳以上)
- 既存の認知症・軽度認知障害(MCI)
- 手術侵襲(特に整形外科・心臓血管外科手術後)
- 全身麻酔の影響
- 多剤併用(ポリファーマシー)
- 抗コリン作用を有する薬剤の使用
- 脱水・電解質異常
- 低酸素血症・貧血
- 感染症(尿路感染、肺炎など)
- 疼痛コントロール不良
- 便秘・尿閉
- 感覚遮断(視力・聴力低下、眼鏡・補聴器の不使用)
- 環境変化(入院、転棟、転室)
- 昼夜の区別がつきにくい照明環境
- 睡眠剤の不適切使用
注意したい症状
- 急激な意識レベルの変動
- 夕方以降の著明な不穏・興奮
- 幻視(虫や人影が見えるなど)
- 被害妄想(物を盗られた、毒を盛られたなど)
- 見当識障害の増悪
- 夜間の頻回なナースコール
- 無目的な徘徊行動
- 攻撃的言動・暴力行為
- 医療デバイスへの不適切な接触
- 食事・水分摂取の拒否
- 表情の険しさ、不安の表出
- 日中の過度な傾眠
対応の基本
- 原因検索:身体疾患(感染、脱水、低酸素など)の除外と治療
- 薬剤調整:せん妄誘発薬の中止・減量、必要に応じた抗精神病薬の慎重投与
- 環境調整:日中は明るく、夜間は静かで適度に暗い環境を整える
- 見当識訓練:時計、カレンダー、家族写真の設置、繰り返しの声かけ
- 睡眠衛生の改善:日中の活動促進、昼寝の制限、夜間の睡眠確保
- 疼痛管理:適切な鎮痛薬の使用
- 脱水・栄養管理:適切な水分・栄養補給
- 排泄ケア:定時誘導、留置カテーテルの早期抜去
- 感覚補助具の確保:眼鏡、補聴器の使用
- 身体拘束の回避:可能な限り抑制を避け、見守り体制を強化
- 家族の協力:面会時間の調整、馴染みの物の持ち込み
- 多職種連携:医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、介護職の情報共有
リハビリの視点
夜間せん妄のリハビリテーションでは、概日リズムの正常化と身体機能の維持が中心となります。日中の離床時間を確保し、適度な運動負荷をかけることで、夜間の自然な睡眠を促します。病棟内歩行訓練、座位耐久性訓練、作業療法による認知刺激などを組み合わせ、昼夜のメリハリをつけます。また、見当識訓練やリアリティオリエンテーションを通じて、時間・場所・状況の認識を促進します。家族指導では、面会時の関わり方や退院後の生活リズム維持について助言し、再発予防を図ります。急性期では安全確保を最優先とし、症状が落ち着いた段階で段階的にリハビリテーションを進めることが重要です。
ひとことで言うと
「夕方から夜にかけて急に出現・増悪する意識障害で、見当識障害や幻覚、興奮を伴い、高齢者・術後患者に多く見られる状態」
関連用語
- せん妄
- サンダウン症候群(夕暮れ症候群)
- 見当識障害
- 認知症
- 術後せん妄
- 概日リズム障害
- 睡眠-覚醒リズム
- リアリティオリエンテーション
- CAM(Confusion Assessment Method)
- NEECHAM混乱・錯乱スケール
参考文献
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- 概日リズム障害とリハビリテーション
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- 高齢者の睡眠障害とケア
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