膝蓋大腿関節症とは
膝蓋大腿関節症とは、膝蓋骨(膝のお皿)と大腿骨の間にある膝蓋大腿関節で、軟骨のすり減りや炎症、骨の変形が起こり、膝前面に痛みが出る状態です。英語では patellofemoral osteoarthritis や patellofemoral arthritis と呼ばれます。
ポイントは、一般的な変形性膝関節症の中でも、膝の前側、とくにお皿の周囲や裏側の痛みが目立ちやすいことです。階段の上り下り、しゃがみ込み、立ち上がり、坂道歩行などで痛みが出やすく、平地歩行では比較的軽いこともあります。つまり「膝全体が痛い」というより、膝蓋骨まわりの負担で痛みが誘発される病態として考えると理解しやすいです。
どこでみるのか
膝蓋大腿関節症は、整形外科、リハビリテーション科、スポーツ整形、膝前面痛の外来などでよくみます。患者さんの訴えとしては、「階段で膝のお皿が痛い」「立ち上がるときに前が痛む」「しゃがむと痛い」「ゴリゴリ音がする」「膝のお皿の動きが気になる」といった形で出会うことが多いです。
中高年では加齢や変形性膝関節症の一部としてみられることが多く、若い人では膝蓋骨の不安定性や脱臼・亜脱臼の既往、アライメント異常を背景に早めに起こることがあります。つまり、年齢だけでなく、膝蓋骨の動き方や位置関係も重要になります。
何をみているのか
膝蓋大腿関節症でみているのは、単に膝が曲がるかどうかではなく、膝蓋骨が大腿骨の溝の上をどのように動いているか、そのとき関節面にどれくらい負担がかかっているかです。膝を曲げ伸ばしすると、膝蓋骨は大腿骨の溝に沿って滑るように動きますが、軟骨がすり減ったり、膝蓋骨の動きが偏ったりすると、摩擦や圧迫が増えて痛みが出ます。
そのため評価では、膝そのものだけでなく、股関節、足部、下肢アライメント、筋力、体重、動作習慣まで含めてみる必要があります。ここを局所の炎症だけで考えると、なぜ症状が長引くのかを見落としやすくなります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、痛みがどこで出るか、どんな動作で強くなるかを確認します。階段昇降、椅子からの立ち上がり、しゃがみ込み、膝立ち、長時間座位のあとなどで膝前面痛が出る場合は、膝蓋大腿関節の関与を疑いやすくなります。
そのうえで、膝蓋骨の圧痛、動きの偏り、引っかかり感、腫れ、可動域、膝の屈伸での軋轢音をみます。また、膝だけでなく、股関節外転筋や大腿四頭筋の機能、足部の回内傾向、動的ニーインなどを確認します。つまり、膝蓋骨そのものの問題なのか、全身の運動連鎖の中で負担が増えているのかをみることが臨床上のコツです。
評価で何をみるか
- 膝前面、とくに膝蓋骨周囲の痛みの部位
- 階段、立ち上がり、しゃがみ込み、坂道での症状の変化
- 膝蓋骨の圧痛、可動性、アライメント
- 膝屈伸時の引っかかり感やゴリゴリ音
- 腫脹、熱感、関節液貯留の有無
- 膝関節可動域、とくに深屈曲時の痛み
- 大腿四頭筋、股関節外転筋・外旋筋の筋力
- 歩行、片脚立位、スクワットでの動的アライメント
- X線での関節裂隙の狭小化、骨棘、膝蓋骨位置の確認
- 必要に応じたMRIでの軟骨損傷や周囲組織の評価
臨床でよく出る問題
- 階段の上り下りで膝のお皿周囲が痛む
- 椅子から立ち上がるときに膝前面が痛む
- 長時間座ったあとに動き出しで痛い
- しゃがみ込みや正座がしづらい
- 膝の屈伸でゴリゴリ、ミシミシした感じがある
- 膝蓋骨の引っかかり感や不安定感がある
- 痛みのために活動量が落ち、筋力低下が進む
膝蓋大腿関節症は、歩けないほどではなくても、日常で繰り返す動作に痛みが出るため、生活の質を下げやすい疾患です。だからこそ、痛みそのものだけでなく、どの動作で関節負担が高まっているかを整理する必要があります。
起こりやすい要因
膝蓋大腿関節症は、軟骨の加齢変化だけでなく、膝蓋骨にかかる負担が偏ることで起こりやすくなります。代表的な要因は次の通りです。
- 加齢による軟骨の摩耗
- 変形性膝関節症の一部としての進行
- 膝蓋骨脱臼や亜脱臼の既往
- 膝蓋骨の不安定性
- 大腿骨滑車の形態異常などの解剖学的要因
- 股関節や下肢アライメントの問題
- 大腿四頭筋や股関節周囲筋の筋力低下
- 体重増加
- 階段やしゃがみ動作の反復負荷
女性では骨盤の幅や大腿骨の角度の影響で、膝蓋大腿関節に負担がかかりやすいとされます。また、若い頃から膝蓋骨の脱臼や亜脱臼を繰り返していると、早い段階で軟骨摩耗が進むことがあります。つまり、加齢だけでなく力学的な偏りが大きな要因です。
注意したい症状
- 膝前面の痛みが急に強くなった
- 膝が大きく腫れて熱をもっている
- 膝が急に伸びない、曲がらない
- 膝折れが強く、転びそうになる
- 外傷後から痛みや不安定感が続く
- 安静時痛や夜間痛が強い
- 発熱を伴う関節痛がある
このような場合は、単なる膝蓋大腿関節症だけでなく、半月板損傷、靱帯損傷、膝蓋骨脱臼後の障害、炎症性疾患、感染、骨折などを考える必要があります。特に外傷後や著明な腫脹がある場合は、早めの整形外科受診が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず痛みを強める負荷を減らしつつ、関節の動きと支持機能を整えることです。保存療法が基本で、活動量の調整、運動療法、薬物療法、必要に応じて注射や装具を検討します。
- 階段、深いしゃがみ込み、膝立ちなど負荷の高い動作を調整する
- 大腿四頭筋や股関節周囲筋のトレーニングを行う
- 膝蓋骨の動きを考慮した理学療法を進める
- 必要に応じて体重管理を行う
- 消炎鎮痛薬や外用薬を用いる
- 症例によってヒアルロン酸関節内注射を検討する
- 装具やテーピングで膝蓋骨の不安定性を補助する
- 保存療法で改善しなければ手術を検討する
手術が必要になるのは一部で、膝蓋骨の不安定性が強い場合のアライメント矯正や、進行した変形に対する人工関節手術などが選択されます。リハビリでは、痛みを避けるだけでなく、再び膝蓋大腿関節に過剰な負荷が集まらない動き方を作ることが大切です。
ひとことで言うと
膝蓋大腿関節症とは、膝のお皿と太ももの骨の間の関節で軟骨の摩耗や炎症、変形が起こり、階段や立ち上がりなどで膝前面痛を生じやすくなる状態です。
関連用語
参考文献・出典
- 徳洲会グループ:整形外科の病気 膝蓋大腿関節症
- Hospital for Special Surgery: Patellofemoral Arthritis of the Knee
- 日本整形外科学会:変形性膝関節症診療ガイドライン2023