交互脈とは
交互脈とは、脈のリズム自体はほぼ規則的なのに、1拍ごとに脈の強さが強い・弱いと交互に変わる所見です。英語では pulsus alternans と呼ばれます。
ポイントは、不整脈のように「脈が飛ぶ」ことではなく、同じ間隔で打っているのに拍出の強さが交互に変わることです。多くの場合、重い左室機能低下を示す重要な身体所見であり、単なる脈の個性ではなく、心機能低下のサインとして考えることが重要です。
どこでみるのか
循環器内科、救急外来、集中治療、病棟診察、心不全の評価場面などでみます。特に急性心不全、重度の左室収縮機能低下、心筋症、虚血性心疾患、大動脈弁狭窄症などの患者で問題になります。
患者さんの訴えとしては、「息苦しい」「動くとすぐしんどい」「横になると苦しい」「胸が重い」「ふらつく」「冷汗が出る」といった形で出会うことがあります。交互脈そのものを本人が自覚することは少なく、診察中の脈拍触知や血圧測定の中で見つかることが多い所見です。
何をみているのか
交互脈でみているのは、単なる脈拍数ではなく、1回ごとの心拍出の強さがどれだけ安定しているかです。左室の収縮がかなり低下していると、拍ごとに拍出量が変動し、動脈で触れる脈の強さや収縮期血圧が強弱交互になります。
そのため評価では、「脈が規則的か不規則か」だけでなく、「規則的なのに強さが交互に変わっていないか」を分けてみることが重要です。ここを混同すると、不整脈とだけ捉えてしまったり、重度心不全の身体所見を見逃したりします。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、脈拍を触れて、規則的なリズムの中で強い拍と弱い拍が交互に続いていないかを確認します。橈骨動脈では分かりにくいことがあり、より中枢寄りの動脈で触れたほうが分かりやすいことがあります。
また、血圧計を用いると、減圧の途中で最初は強い拍だけが聞こえ、その後さらに下げるとすべての拍が聞こえるという形で捉えられることがあります。つまり、脈の間隔ではなく拍ごとの強さの交互変動をみることが臨床上のコツです。
評価で何をみるか
- 脈拍リズムが規則的かどうか
- 1拍ごとの脈の強さが強・弱で交互になっていないか
- 血圧測定で拍ごとの聴取差がないか
- 心不全症状(呼吸苦、起座呼吸、浮腫、倦怠感)の有無
- 冷感、四肢末梢循環不全、血圧低下の有無
- 心雑音やⅢ音など心機能低下を示す所見
- 心不全や心筋症の既往
- 胸痛、失神、頻脈、低酸素など急性循環不全を疑う所見
- 心エコーでの左室収縮機能低下の有無
- 必要に応じた心電図、血液検査、画像評価の確認
臨床でよく出る問題
- 重度の左室機能低下を示すサインとして見逃されやすい
- 不整脈と混同されやすい
- 橈骨動脈だけでは気づきにくい
- 血圧が安定しているように見えても循環が不安定なことがある
- 急性心不全の一部として出現することがある
- 進行した心疾患の予後不良サインになりうる
- 原因評価をしないと背景の重症心疾患を見逃しやすい
交互脈そのものが病名というより、重い心機能障害の背景に出てくる身体所見として働くことが多いです。だからこそ、脈の異常を見つけた時は、それ自体を終点にせず、なぜそのような拍出変動が起きているのかに目を向ける必要があります。
起こりやすい要因
交互脈は、心室の拍出が拍ごとに安定しない状態で起こります。代表的な要因は次の通りです。
たとえば重い左室機能低下では、ある拍では比較的しっかり駆出できても、次の拍では駆出が弱くなるという変動が起こりえます。つまり「脈の問題」というより、心室の拍出不安定性が脈として表面化したものと考えると理解しやすくなります。
注意したい症状
- 急な呼吸苦や起座呼吸
- 冷汗、顔面蒼白、四肢冷感
- 胸痛や胸部圧迫感
- 血圧低下や意識が遠のく感じ
- 失神や前失神
- 急激な倦怠感や運動耐容能低下
- 浮腫や尿量低下を伴う全身状態悪化
このような場合は、単なる脈の変化だけでなく、急性心不全、重度心機能低下、虚血、ショック前状態などを考える必要があります。特に呼吸苦や低血圧を伴う場合は、循環器救急としての対応が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず交互脈そのものを診断名にせず、背景の重症心疾患を評価することです。交互脈がある場合は、心不全や左室機能低下の評価を速やかに進めます。
- 脈拍の規則性と強弱交互を確認する
- 血圧、呼吸状態、末梢循環を確認する
- 心不全徴候や肺うっ血所見を評価する
- 心電図で不整脈や虚血所見を確認する
- 心エコーで左室機能や弁膜症を評価する
- 必要に応じて急性心不全や虚血への治療につなげる
- 重症例では入院管理や循環動態の監視を行う
- 慢性期は原因疾患に応じて心不全管理を進める
臨床では、交互脈を見つけた時点で「脈がおかしい」で止まらず、背景にある左室機能低下や循環不安定性を疑うことが実用的です。身体所見としては古典的ですが、重症心疾患を示すサインとして今でも重要です。
ひとことで言うと
交互脈とは、脈の間隔は規則的なのに、1拍ごとに脈の強さが強い・弱いと交互に変わる所見です。