右大脳半球損傷とは
右大脳半球損傷とは、脳の右半球が脳卒中、外傷、腫瘍などによって障害され、高次脳機能障害や運動障害が起こる状態です。右半球は、空間認知、注意機能、視覚情報の統合、感情の認識、プロソディ(言語の抑揚)、全体的な把握などを担っており、損傷されるとこれらの機能に特徴的な障害が現れます。
ポイントは、右半球損傷では左半球損傷とは異なる特徴的な症状が出現することです。代表的なものとして、半側空間無視、病態失認、構成障害、注意障害、感情認知の障害、コミュニケーション障害などがあります。また、左半球損傷で見られる失語症とは異なり、言語そのものの障害は少ないものの、語用論的な問題や抑揚の障害が起こることがあります。
つまり右大脳半球損傷は、見落とされやすいが日常生活や社会参加に大きな影響を与える高次脳機能障害を引き起こす病態として理解することが大切です。
どこでみるのか
右大脳半球損傷は、リハビリテーション科、神経内科、脳神経外科、精神科の場面でよくみます。特に、脳卒中後、頭部外傷後、脳腫瘍術後などで問題になります。
患者さんの訴えとしては、「左側にぶつかる」「左側の食べ物を残す」「自分の麻痺を認めない」「図形が描けない」「道に迷う」「話が回りくどい」「冗談が通じない」「感情表現が乏しい」といった形が多くみられます。リハビリの現場では、左半身の麻痺があっても、本人が麻痺を認識していない(病態失認)ため、リハビリ意欲が低下したり、危険行動が見られたりすることがあります。
何をみているのか
右大脳半球損傷でみているのは、空間認知の偏り、注意機能の偏向、病識の有無、構成能力、感情認知、コミュニケーションの質、日常生活動作への影響です。
右半球は、左右両側の空間に注意を向ける機能を持ちますが、左半球は主に右側の空間にのみ注意を向けます。そのため、右半球が損傷されると、左半球だけでは左側への注意が十分に向けられず、半側空間無視が出現しやすくなります。また、右半球は全体像の把握、視覚情報の統合、感情の認識などにも関与しているため、これらの機能も障害されます。
つまり、右大脳半球損傷では「どの側の空間を無視しているか」「病識はあるか」「全体像を把握できているか」「感情認知やコミュニケーションに問題はないか」を組み合わせて、高次脳機能障害の全体像を評価することが重要になります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、半側空間無視の有無、病態失認の有無、左半身麻痺の程度、日常生活動作での偏り、構成課題の遂行能力、注意機能、感情表現、コミュニケーションの特徴を確認します。そのうえで、線分抹消試験、線分二等分試験、模写課題、行動性無視検査(BIT)、Catherine Bergego Scale(CBS)などを評価します。
半側空間無視は、紙の上のテストだけでなく、食事、車椅子操作、歩行、更衣などの日常生活場面でどのように現れるかを観察することが重要です。病態失認がある場合は、自分の麻痺を否定したり、軽視したりするため、リハビリへの協力が得られにくいことがあります。
つまり臨床では、問診、神経学的所見、標準化された検査、日常生活場面での観察を組み合わせて評価することが基本です。
評価で何をみるか
- 半側空間無視の有無と程度
- 病態失認、身体失認の有無
- 左半身麻痺の程度と分布
- 線分抹消試験、線分二等分試験の結果
- 模写課題、構成課題の遂行能力
- 行動性無視検査(BIT)の結果
- 日常生活場面での左側の見落とし
- 注意障害の有無と種類(持続性、選択性、分配性)
- 感情認知、表情認知の障害
- プロソディ(言語の抑揚)の障害
- 語用論的コミュニケーション障害
- 地誌的見当識障害
- 運動維持困難(motor impersistence)
- リハビリ意欲、病識、危険認識
臨床でよく出る問題
- 左側の食べ物や物を見落とす
- 左側にぶつかる、左側を無視する
- 自分の麻痺を認めない、軽視する
- 図形の模写ができない、左半分が欠ける
- 全体像を把握できず、細部に固執する
- 注意が散漫になりやすい
- 道に迷う、地図が読めない
- 話が回りくどい、要点がつかめない
- 冗談や比喩が理解できない
- 感情表現が乏しい、単調になる
- リハビリ意欲が低下する
- 危険行動が見られる
右大脳半球損傷では、症状が目立ちにくいため見落とされやすいですが、日常生活動作の自立、社会復帰、安全性に大きな影響を与えることがあります。そのため、症状だけでなく、実際の生活場面での問題点を確認することが大切です。
起こりやすい要因
右大脳半球損傷は、脳卒中、外傷、腫瘍など多様な要因で起こります。代表的な要因は次の通りです。
- 右中大脳動脈領域の脳梗塞
- 右半球の脳出血
- くも膜下出血
- 頭部外傷(交通事故、転倒など)
- 右半球の脳腫瘍
- 脳動静脈奇形
- 低酸素脳症
- 右半球の脳炎、脳膿瘍
- 右頭頂葉、右前頭葉、右側頭葉の局所病変
特に右中大脳動脈領域の脳梗塞では、半側空間無視、病態失認、構成障害などが高頻度で出現します。また、右頭頂葉の損傷は半側空間無視と強く関連しています。
注意したい症状
- 急激な左半身麻痺の出現
- 意識障害、見当識障害の出現
- 半側空間無視が重度で危険行動が見られる
- 病態失認が強く、リハビリ拒否がある
- 転倒、転落のリスクが高い
- 感情コントロールが困難
- せん妄、興奮状態がある
- 頭痛、嘔吐、意識レベルの低下
このような場合は、単なる高次脳機能障害ではなく、急性期脳卒中、脳浮腫の増悪、再出血、脳ヘルニア、合併症などを考える必要があります。特に急性発症や意識障害を伴う場合は注意が必要です。
対応の基本
対応の基本は、まず症状を正確に評価し、患者さん自身と家族に症状を説明し、理解を促すことです。右半球損傷では病態失認があるため、本人が症状を認識していないことが多く、説明と環境調整が重要になります。
- 半側空間無視の評価と対応を行う
- 病態失認に配慮した説明とアプローチを行う
- 左側への視覚的手がかりを増やす
- 左側からの声かけや刺激を増やす
- 環境調整を行い、左側に重要なものを配置する
- プリズム眼鏡などの視覚的介入を検討する
- 注意機能訓練、視覚走査訓練を行う
- 構成課題、視空間課題の練習を行う
- 日常生活動作での左側への意識づけを行う
- 感情認知訓練、コミュニケーション訓練を行う
- 家族指導を徹底し、安全管理を行う
リハビリでは、半側空間無視や病態失認に配慮しながら、左側への注意を促し、日常生活での実用性を高めることが大切です。また、転倒や危険行動のリスクが高いため、環境調整と見守りが重要です。
リハビリの視点
リハビリでは、右大脳半球損傷が患者さんの日常生活動作、安全性、社会復帰、生活の質にどう影響しているかを包括的にみることが大切です。特に半側空間無視や病態失認がある場合、本人が問題を認識していないため、リハビリ意欲が低下しやすく、危険行動が見られやすいことを理解しておく必要があります。
訓練では、左側への視覚走査訓練、注意機能訓練、日常生活動作での左側への意識づけが有効です。また、プリズム眼鏡やトランクアクティベーションなどの介入も検討されます。病態失認に対しては、直接的な指摘ではなく、実際の動作を通じて気づきを促すアプローチが有効です。
右大脳半球損傷の症状は、左半球損傷に比べて見落とされやすく、理解されにくいことがあります。つまり、右半球損傷の特徴を理解し、症状に応じた評価とアプローチを行うことが、生活の質の向上と安全な生活の実現に不可欠なのです。
ひとことで言うと
右大脳半球損傷とは、脳の右半球の障害によって、半側空間無視、病態失認、構成障害、注意障害、感情認知障害などの特徴的な高次脳機能障害が起こる病態です。
関連用語
- 半側空間無視
- 病態失認
- 構成障害
- 注意障害
- プロソディ障害
- 語用論
- 地誌的見当識障害
- 左半身麻痺
参考文献
- 日本リハビリテーション医学会誌:脳血管障害(右半球損傷)
- 日本リハビリテーション医学会:リハニュース No.25・右半球損傷での症状の表現、評価について
- 日本神経心理学会:半側空間無視:左のほうを見てくれません
- PubMed:Rehabilitation for cognitive-communication disorders in right hemisphere brain damage
- ASHA:Right Hemisphere Disorder
- 脳梗塞リハビリBOT静岡:高次脳機能障害の症状を分かりやすく解説
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