右心不全

右心不全とは

右心不全とは、右心室のポンプ機能低下により全身への静脈還流が障害され、体静脈系にうっ血をきたす病態である。右心室は全身から戻ってきた血液を肺循環へ送り出す役割を担うため、その機能不全により静脈圧が上昇し、肝腫大、下腿浮腫、腹水、頸静脈怒張などの体液貯留徴候が出現する。左心不全に続発する二次性のものと、肺高血圧症や肺疾患を原因とする原発性のものがある。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎などの呼吸器疾患に伴う肺性心も右心不全の重要な原因となる。

どこでみるのか

右心不全の評価は全身の静脈系うっ血徴候を中心に観察する。頸部では座位または半座位で頸静脈の怒張を確認し、中心静脈圧の推定を行う。胸部では心音聴診により三尖弁閉鎖不全に伴う収縮期雑音、肺野の聴診により胸水貯留や肺うっ血の有無を評価する。腹部では肝腫大の有触診、腹囲測定により腹水の程度を評価する。下腿では圧痕性浮腫の有無と範囲を確認する。心エコー検査では右心室の拡大、右房拡大、三尖弁逆流、下大静脈径の拡大と呼吸性変動の減少を観察する。胸部X線では心陰影の拡大、肺血管陰影の変化、胸水貯留を確認する。

何をみているのか

右心不全では右心室の収縮力低下または前負荷・後負荷の過剰により、右心室から肺動脈への血液拍出が減少する。その結果、右房圧と中心静脈圧が上昇し、体静脈系全体に圧が波及する。静脈圧上昇により毛細血管から組織への水分漏出が増加し、浮腫や体腔内への水分貯留が生じる。肝臓では静脈うっ血により肝腫大と肝機能障害が出現する。腎臓では静脈うっ血と心拍出量低下により腎血流が減少し、体液貯留が助長される。左心への前負荷も減少するため、全身への心拍出量低下と臓器灌流不全をきたす。

評価で何をみるか

右心不全の評価では頸静脈圧の推定を行い、座位で鎖骨上まで怒張が確認される場合は中心静脈圧の著明な上昇を示す。下腿浮腫の程度を圧痕の深さと範囲により評価し、膝上まで及ぶ場合は重症と判断する。体重測定により体液貯留の程度を定量化し、急激な体重増加(数日で2~3kg以上)は要注意である。腹囲測定と腹水の有無を超音波検査で確認する。肝機能検査ではAST、ALT、総ビリルビンの上昇を認める。BNPまたはNT-proBNPは心負荷の指標として測定し、右心不全でも上昇する。心エコー検査では三尖弁輪収縮期移動速度(TAPSE)が16mm未満で右心機能低下を示し、下大静脈径が21mm以上で虚脱率50%未満の場合は右房圧上昇を示唆する。右心カテーテル検査により右房圧、肺動脈圧、肺動脈楔入圧を直接測定し、肺高血圧の有無と程度を評価する。6分間歩行試験やCPETにより運動耐容能を定量化する。

臨床でよく出る問題

右心不全患者において臨床上よく遭遇する問題として、下腿浮腫の増悪により靴が履けない、歩行困難となるなどADLが制限される。腹水貯留により腹部膨満感、食欲不振、早期満腹感が生じ栄養摂取が困難となる。肝うっ血による肝機能障害が進行すると凝固障害や低アルブミン血症を合併する。胸水貯留により呼吸困難感が増強し、臥位保持が困難となる。利尿薬の使用により電解質異常(低Na血症、低K血症)や腎機能悪化をきたしやすい。体液貯留による体重増加と運動耐容能低下により廃用症候群が進行する悪循環に陥る。肺高血圧を伴う場合、失神や突然死のリスクが高まる。

起こりやすい要因

右心不全の原因として最も多いのは左心不全の進行に伴う二次性のものである。左心不全により肺静脈圧が上昇し、肺高血圧を生じ、右心室後負荷が増大する。慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、睡眠時無呼吸症候群などの慢性呼吸器疾患による肺性心も重要な原因である。肺血栓塞栓症により急性に右心室後負荷が増大し急性右心不全をきたす。特発性肺動脈性肺高血圧症、膠原病に伴う肺高血圧症も原因となる。三尖弁疾患(三尖弁閉鎖不全症、三尖弁狭窄症)、心房中隔欠損症などの先天性心疾患、右室梗塞、不整脈源性右室心筋症も右心不全の原因となる。

注意したい症状

右心不全患者で注意すべき症状として、急激な体重増加(数日で2kg以上)は体液貯留の増悪を示す。下腿浮腫の急速な悪化、腹部膨満感の増強、食欲不振の進行は心不全増悪の徴候である。労作時呼吸困難の増強、起座呼吸の出現は肺うっ血の合併や増悪を示唆する。黄疸の出現や腹痛は肝うっ血の進行による肝障害を示す。尿量減少は腎灌流低下と体液貯留の悪化を意味する。意識レベルの低下、倦怠感の著明な増強は心拍出量低下による臓器灌流不全を示唆する。失神発作は肺高血圧の増悪や不整脈の可能性があり緊急対応を要する。

対応の基本

右心不全の治療は原因疾患の管理が第一となる。左心不全が原因の場合はその治療を強化する。肺疾患が原因の場合は呼吸管理と酸素療法を適切に行う。利尿薬により体液貯留をコントロールし、ループ利尿薬を中心に使用する。過剰な利尿は心拍出量を低下させるため、体重や症状をモニタリングしながら慎重に調整する。塩分制限(6g/日未満)と水分管理を指導する。肺高血圧に対しては肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、プロスタサイクリン製剤など)の適応を検討する。三尖弁逆流が高度な場合は外科的治療も考慮する。在宅酸素療法が必要な場合は導入し、適切な流量設定を行う。定期的な体重測定と症状モニタリングによりセルフマネジメントを支援する。

リハビリの視点

リハビリテーションでは右心不全患者の運動耐容能改善と廃用予防を目指すが、過負荷による症状増悪を避ける慎重な運動処方が求められる。運動療法開始前に心エコーやCPETにより右心機能と運動耐容能を評価し、安全な運動強度を設定する。有酸素運動は修正Borg scale 34程度の低中等度強度から開始し、症状や体重変化をモニタリングしながら漸増する。レジスタンストレーニングでは過度の息こらえを避け、呼吸を止めない動作指導を徹底する。浮腫が高度な場合は下肢挙上や弾性ストッキング着用により静脈還流を促進する。ADL指導では入浴や排便時の過度な努責を避ける方法を指導する。栄養指導では塩分制限と適切な水分摂取のバランスを教育する。呼吸器疾患を伴う場合は呼吸法指導や排痰訓練を併用する。毎日の体重測定と浮腫の自己観察を習慣化させ、増悪の早期発見と受診行動につなげる。心理的サポートにより不安やうつ症状に対応し、QOLの維持向上を図る。

ひとことで言うと

右心不全とは右心室のポンプ機能低下により体静脈系にうっ血が生じ、浮腫や肝腫大をきたす病態であり、原因疾患の管理と適切な体液コントロールが治療の基本となる。

関連用語

左心不全
肺高血圧症
肺性心
三尖弁閉鎖不全症
頸静脈怒張
中心静脈圧
下腿浮腫
肝うっ血
BNP
NT-proBNP
心エコー検査
TAPSE
下大静脈径
体液貯留
利尿薬

参考文献

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