腱板損傷とは
腱板損傷とは、肩関節を安定させながら動かす役割をもつ腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の腱に、炎症、変性、部分断裂、完全断裂などが生じた状態です。日常診療では「腱板断裂」とほぼ同じ文脈で使われることもありますが、厳密には軽い腱障害から大きな断裂まで含む広い概念として理解したほうが整理しやすくなります。
肩関節は可動性が大きい一方で不安定になりやすく、腱板は上腕骨頭を関節の中央に保ちながら、挙上や回旋といった動きを支える重要な組織です。そのため腱板が傷むと、単なる肩の痛みだけでなく、腕を上げにくい、力が入りにくい、日常生活動作がしにくいといった機能障害につながります。
また、腱板損傷は1回の外傷で急に起こることもあれば、加齢や反復負荷によって徐々に進行することもあります。したがって、症状の経過や発症状況を踏まえて、急性外傷性なのか、慢性的な変性を背景にしたものなのかを考えることが重要です。
どこでみるのか
整形外科、スポーツ整形、リハビリテーション科、接骨・運動器リハビリの場面などでよくみられます。中高年の肩痛の代表的な原因の1つであり、夜間痛、肩挙上時痛、結帯動作のしづらさなどの背景として頻繁に問題になります。
また、転倒や重量物挙上後に急に肩が上がらなくなった症例、野球やテニスなどのオーバーヘッド動作を繰り返す症例、長年の肩痛が徐々に悪化している症例でも考える必要があります。リハビリの場面では、疼痛だけでなく、肩甲帯の代償、可動域制限、筋力低下、ADL障害として表れることが多くなります。
何をみるのか
まず、痛みの部位と経過を確認します。急な外傷後か、徐々に悪化してきたか、夜間痛があるか、上に手を伸ばす動作や髪をとかす動作、背中に手を回す動作で困るかなどを整理します。腱板損傷では、肩の深い部位の鈍い痛み、挙上時痛、側臥位での疼痛がよくみられます。
次に、肩関節の自動・他動可動域、筋力、疼痛誘発動作、肩甲胸郭リズムをみます。特に有痛弧、棘上筋テスト、外旋抵抗、belly press、drop arm などを組み合わせることで、どの腱板筋が関与していそうかを推測しやすくなります。あわせて、肩甲骨の動きが過剰に代償していないか、挙上時に肩をすくめるような動きになっていないかも重要です。
さらに、画像では単純X線で骨棘や肩峰形状、肩関節アライメントを確認し、超音波やMRIで腱板の部分断裂・完全断裂、筋萎縮、脂肪変性などを評価します。つまり腱板損傷では、症状、身体所見、画像所見を組み合わせて、どの程度の損傷がどの程度機能に影響しているかをみることが大切です。
どんなことが問題になるのか
腱板損傷で問題になるのは、肩の痛みそのものだけではありません。痛みのために腕を使わなくなることで、可動域制限、筋力低下、肩甲帯の代償動作が進み、結果として日常生活での不自由が大きくなります。
具体的には、洗髪、更衣、物を高い所へ上げる、荷物を持つ、後ろポケットに手を回すといった動作がしにくくなります。夜間痛が強い場合には睡眠障害につながり、活動量低下や慢性痛化の一因になることもあります。
また、断裂が大きい場合や長期間放置された場合には、筋萎縮や脂肪変性が進み、後から修復しても機能回復が不十分になることがあります。そのため、単なる肩こりや年齢のせいとして見過ごさず、どの程度の損傷で、今後進行しそうかを考えながら評価する必要があります。
よくある原因
原因は大きく、外傷性と変性性に分けて考えます。外傷性では、転倒して手をついた、重い物を持ち上げた、急に肩を引っ張られたなどをきっかけに断裂することがあります。特に若年〜中年で急に力が入らなくなった場合は、外傷性完全断裂を疑う必要があります。
一方で、より多いのは加齢や反復使用を背景にした変性性損傷です。腱の血流低下、摩耗、インピンジメント、長年のオーバーヘッド動作などが重なって、徐々に腱が弱くなり、部分断裂から完全断裂へ進むことがあります。年齢、喫煙、反復挙上作業、特定のスポーツ、姿勢不良なども関連因子として知られています。
つまり腱板損傷は、1回の強い外力だけでなく、長年の微小負荷の蓄積でも起こる病態として理解することが重要です。
見逃したくない所見
外傷後に急に腕が上がらなくなった、明らかな筋力低下がある、drop arm が強い、夜間痛が強い、短期間で機能が大きく落ちたといった場合は注意が必要です。これらは大きな断裂や急性完全断裂の可能性があり、早めの専門的評価が望まれます。
また、他動可動域まで大きく制限されている場合は、腱板損傷単独ではなく癒着性関節包炎などの合併も考えます。逆に、痛みより筋力低下が目立つ場合は、頚椎由来の神経障害や肩甲上神経障害なども鑑別に入ります。
さらに、長期経過例で挙上不能や偽性麻痺に近い状態がある場合、大断裂や修復困難例の可能性もあります。単に「痛いから動かない」のか、「腱板機能が保てない」のかを分けて考えることが重要です。
どう対応するか
保存療法では、疼痛コントロール、活動調整、運動療法が基本になります。特に肩甲帯の機能改善、可動域維持、腱板周囲筋や体幹を含めた協調性の改善が重要で、症状や損傷部位に応じて段階的に進めます。多くの症例では、いきなり強い筋トレを行うより、まず痛みを抑えながら滑らかな肩の使い方を再学習することが大切です。
保存療法で痛みが軽減し、機能が改善する例は少なくありません。一方で、若年者の外傷性完全断裂、明らかな筋力低下が残る例、保存療法で改善しない例では、手術が検討されます。手術後も固定期間、可動域練習、筋力回復と段階を踏んだリハビリが必要であり、回復には数か月から1年近くかかることもあります。
つまり対応では、断裂の有無だけでなく、年齢、受傷機転、症状の強さ、求められる活動レベルを総合して、保存か手術かを判断する視点が重要です。
まとめ
腱板損傷は、肩関節の安定と運動を支える腱板に生じる腱障害・部分断裂・完全断裂を含む広い概念です。症状としては、肩の痛み、夜間痛、挙上時痛、筋力低下、日常生活動作のしづらさがよくみられます。
原因は外傷性と変性性に大別され、中高年では加齢や反復負荷を背景に徐々に進むことが多くあります。臨床では、痛みだけでなく、筋力、可動域、代償動作、生活機能への影響をあわせて評価し、進行性の断裂や外傷性完全断裂を見逃さないことが大切です。
関連する用語
参考文献・出典
- StatPearls. Rotator Cuff Injury.
- Mayo Clinic. Rotator cuff injury - Symptoms and causes.
- Mayo Clinic. Rotator cuff injury - Diagnosis and treatment.
- AAOS OrthoInfo. Rotator Cuff Tears.
- Cleveland Clinic. Rotator Cuff Tear: Symptoms & Treatment.