知覚障害とは
知覚障害とは、触った感じ、痛み、温度、振動、関節の位置などの感覚が低下したり、わかりにくくなったり、逆にしびれや異常感覚として現れたりする状態です。障害される感覚には、表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)、深部感覚(位置覚・振動覚)、皮質感覚(立体認知、皮膚書字覚、二点識別など)が含まれます。
知覚障害は単なる「しびれ」だけを意味するものではありません。感覚入力が不正確になることで、手足の位置がわかりにくい、力加減が難しい、足裏の接地感が乏しい、物を落としやすい、転びやすいなど、運動や日常生活に大きく影響することがあります。感覚と運動は相互に関連しており、感覚障害への介入は機能回復の上でも重要です。
どこでみるのか
知覚障害は、脳卒中、脳脊髄疾患、末梢神経障害、整形外科疾患、外傷後、糖尿病性ニューロパチー、頸椎症、手根管症候群など、さまざまな病態でみられます。診療場面としては、神経内科、脳神経外科、整形外科、リハビリテーション科、回復期病棟、外来リハビリ、在宅支援などが代表的です。
患者さんの訴えとしては、「触っても鈍い」「しびれる」「足の裏の感じがしない」「どこに足があるかわからない」「熱さに気づきにくい」「目で見ないと動かしにくい」などがあります。したがって知覚障害は、検査上の異常としてだけではなく、実生活での困りごととして把握する必要があります。
何をみているのか
知覚障害でみているのは、単に感覚があるかないかではありません。実際には、どの種類の感覚が障害されているのか、どの部位に分布しているのか、日常動作や姿勢・歩行にどう影響しているのか、病変が中枢性か末梢性かをみています。
神経学的な感覚評価は、機能障害の部位を同定し、大脳皮質、視床、脳・脊髄の感覚路、末梢神経のどこに問題があるかを判断する手がかりになります。そのため、知覚障害の評価は局在診断と生活機能評価の両方の意味を持ちます。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、患者さんがどのような場面で困っているかを確認します。ボタンがかけにくい、床の感覚が乏しく歩きにくい、目で見ないと手足を動かしにくい、熱さや痛みに気づきにくいなど、具体的な生活場面から整理することが大切です。
次に、表在感覚、深部感覚、皮質感覚をできる範囲で評価し、左右差、部位差、再現性を確認します。さらに、安静時だけでなく、立位、歩行、リーチ動作、物品操作など、異常が出やすい姿勢や状況でも評価することが重要です。深部感覚障害では、静止時よりも動作時に問題が目立つことがあり、視覚代償の使い方も重要な観察点になります。
評価で何をみるか
- 触覚、痛覚、温度覚の低下や左右差
- 位置覚・振動覚の低下の有無
- 立体認知、皮膚書字覚、二点識別など皮質感覚の障害
- しびれ、違和感、異常感覚の内容
- 感覚障害の分布が末梢神経・神経根・脊髄・脳のどのパターンに近いか
- 手足の位置把握のしにくさ
- 視覚代償の必要性
- 歩行、立位、リーチ、把持動作への影響
- 物を落とす、つまずく、火傷しやすいなど安全面の問題
- 日常生活動作への影響
代表的な検査としては、軽い触覚は綿球、痛覚は鋭利刺激、温度覚は冷刺激、位置覚は手指や足趾の上下判別、振動覚は128Hz音叉で確認します。皮質感覚では、手の中の物体を当てる立体認知、手掌に書いた数字を判別する皮膚書字覚、二点識別などが用いられます。
臨床でよく出る問題
- しびれや異常感覚が続く
- 足の接地感が乏しく歩行が不安定になる
- 手元を見ないと物を操作しにくい
- 力加減がわかりにくく物を落としやすい
- 関節位置がわかりにくく動作がぎこちなくなる
- 火傷や外傷に気づきにくい
- 更衣や食事などのADLが遅くなる
- 不安が強くなり活動量が低下する
知覚障害は運動麻痺ほど目立たなくても、実際には姿勢制御、巧緻動作、歩行、安全管理に大きく影響します。感覚フィードバックが不十分になることで、運動学習や動作の修正も難しくなります。J-STAGE:感覚障害へのリハビリテーション
起こりやすい要因
知覚障害が起こりやすい背景には、次のような要因があります。
- 脳卒中などの中枢神経障害
- 脊髄障害
- 末梢神経障害
- 糖尿病などによる多発ニューロパチー
- 神経の圧迫や絞扼
- 外傷や手術後の神経損傷
- 頸椎・腰椎由来の神経根障害
- 炎症性・脱髄性疾患
また、深部感覚の障害では、関節の位置や運動の方向がつかみにくくなるため、立位や歩行での不安定性が出やすくなります。感覚障害は単独でも起こりますが、運動障害や高次脳機能障害と重なって症状が複雑になることも少なくありません。
注意したい症状
- 急に片側のしびれや感覚低下が出た
- しびれに麻痺、ろれつの回りにくさ、ふらつき、視野異常を伴う
- 感覚低下が急速に広がる
- 熱さや痛みに気づかず皮膚トラブルを繰り返す
- 歩行時の転倒が増えている
- 強い神経痛や夜間痛を伴う
このような場合は、単なる軽いしびれとして見逃さず、神経学的異常や病状進行の可能性を考える必要があります。特に急性発症で他の神経症状を伴う場合は、早急な医療的評価が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まずどの感覚がどの範囲で障害されているのかを整理し、原因疾患に応じた治療につなげることです。そのうえで、日常生活上の危険を減らすために、視覚情報の活用、環境調整、動作の工夫、皮膚トラブル予防、転倒予防を進めます。
感覚障害に対するリハビリテーションでは、経験則だけでなく、感覚―知覚と運動の関係を踏まえて介入することが重要とされています。感覚入力を意識しやすい課題設定、反復練習、対象物の識別課題、視覚や触覚を用いたフィードバックなどを組み合わせながら、実用的な動作の改善を目指します。
リハビリの視点
リハビリの視点では、知覚障害は「感覚が悪い」という所見だけで終わらせず、動作と結びつけてみることが重要です。深部感覚障害では、静止場面だけでなく異常動作が出る状況や姿勢で評価し、視覚フィードバックなど患者本人が気づける手がかりを使うことが改善の糸口になります。
- 感覚入力を意識しやすい課題を設定する
- 視覚代償を上手く使いながら練習する
- 立位・歩行・上肢操作など実用場面で評価する
- 安全確保を優先しつつ反復練習を行う
- 患者本人が違いに気づけるフィードバックを用いる
- ADLに直結する課題へつなげる
大切なのは、知覚障害を「治りにくいから仕方ない」と片づけないことです。感覚の再学習、代償手段の獲得、環境調整を組み合わせることで、動作の質や安全性の改善を目指すことができます。
ひとことで言うと
知覚障害とは、触覚・痛覚・温度覚・位置覚などの感覚が低下または異常になる状態であり、しびれだけでなく、動作の不安定さや日常生活のしづらさにつながるため、感覚と動作の両面から評価・対応することが重要な問題です。
関連用語
- 感覚障害
- 表在感覚
- 深部感覚
- 位置覚
- 振動覚
- 皮質感覚
- 立体認知
- 皮膚書字覚
- 感覚性失調
- 末梢神経障害
参考文献
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