脊髄損傷とは
脊髄損傷とは、脊髄が外傷などによって傷つき、損傷部位より下の運動・感覚・自律神経機能に障害が生じる状態です。脊椎の骨折や脱臼に伴って起こることが多いですが、脊髄そのものが圧迫や挫滅を受けて神経機能が失われることが本質です。
ポイントは、単なる「背骨のけが」ではなく、脳と手足・体幹・内臓をつなぐ重要な伝導路が障害されるということです。そのため、麻痺や感覚障害だけでなく、呼吸障害、排尿排便障害、血圧調整障害、体温調整障害など、全身に影響が及ぶことがあります。
また、脊髄損傷は完全損傷と不全損傷に分けて考えます。完全損傷では損傷レベル以下の運動・感覚が完全に失われ、不全損傷では一部の機能が残ります。臨床では、この違いが予後やリハビリ方針に大きく関わります。
どこでみるのか
脊髄損傷は、救急外来、脳神経外科、整形外科、脊椎外科、集中治療室、回復期リハビリテーション病棟、生活期リハビリテーションの場面でよくみます。交通事故、転落、転倒、スポーツ外傷などの急性外傷後に問題となることが多いですが、受傷後の長期的な生活支援まで含めて継続的に関わる疾患です。
日本では年間約5000人の脊髄損傷が発生するとされ、20歳代と60歳代に多く、損傷部位は頚髄が多いとされています。高齢化に伴い、高齢者の転倒による受傷も増えています。
何をみているのか
脊髄損傷でみているのは、単に「動かないかどうか」だけではありません。損傷高位がどこか、完全損傷か不全損傷か、どの神経機能がどこまで残っているかをみています。
脊髄は、運動、感覚、自律神経の通り道です。そのため、評価では上肢・下肢の筋力、触覚や痛覚、位置覚、反射、肛門周囲感覚、肛門括約筋機能、呼吸状態、膀胱直腸機能、血圧や発汗などを総合的に確認します。つまり、脊髄損傷は局所の麻痺だけではなく、全身の神経機能障害としてみる必要があるということです。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、受傷機転を確認し、脊椎の不安定性が疑われる場合は不用意に動かさず、頚椎や体幹の保護を優先します。そのうえで、運動・感覚・反射を左右差も含めて評価し、どのレベルで障害が起きているかを推定します。
頚髄損傷では四肢麻痺や呼吸障害、胸髄損傷では体幹・下肢機能障害、腰髄レベルでは下肢麻痺や膀胱直腸障害が前景に出やすくなります。さらに、完全損傷か不全損傷か、自律神経障害が強いか、脊髄ショックの時期かどうかも重要です。
画像ではCTで骨傷を確認し、MRIで脊髄の損傷部位や圧迫、出血、浮腫の有無をみます。つまり臨床では、神経学的所見と画像所見を組み合わせて重症度と方針を決めることが基本になります。
評価で何をみるか
- 受傷機転と外傷の強さ
- 損傷高位の推定
- 完全損傷か不全損傷か
- 四肢・体幹の筋力
- 軽い触覚、痛覚、位置覚の障害範囲
- 深部腱反射や病的反射の有無
- S4〜S5領域の感覚と肛門括約筋機能
- 呼吸状態、咳嗽力、排痰能力
- 排尿・排便機能
- 血圧の不安定性、起立性低血圧、自律神経過反射
- 疼痛、しびれ、痙縮の有無
- 褥瘡、関節拘縮、浮腫、血栓リスク
- ASIA/ISNCSCIによる神経学的分類
- CTやMRIでの脊椎・脊髄損傷所見
臨床でよく出る問題
- 四肢麻痺または対麻痺
- 感覚障害やしびれ
- 排尿・排便障害
- 呼吸障害や排痰困難
- 血圧変動や起立性低血圧
- 自律神経過反射
- 痙縮や拘縮
- 神経障害性疼痛
- 褥瘡
- 尿路感染症
- 深部静脈血栓症や肺炎
- 日常生活動作の大きな制限
脊髄損傷では、受傷直後の麻痺だけでなく、時間がたってからの合併症が生活を大きく左右します。したがって、急性期治療が終わったあとも、長期的な合併症管理と生活再建が重要になります。
起こりやすい要因
脊髄損傷は、脊椎に強い外力が加わり、脊髄が圧迫、牽引、挫滅されることで起こります。代表的な要因は次の通りです。
- 交通事故
- 高所からの転落
- 高齢者の転倒
- スポーツ外傷
- 重量物や労働災害による外傷
- 脊椎脱臼骨折
- 脊柱管狭窄や骨化症を背景にした軽微外傷
特に高齢者では、もともとの頚椎症性変化や脊柱管狭窄があると、比較的軽い転倒でも頚髄損傷を起こすことがあります。つまり、外力の大きさだけでなく、脊椎のもともとの状態も受傷に関係します。
注意したい症状
- 外傷後に手足が動かしにくい
- 外傷後にしびれや感覚低下がある
- 頚部痛や背部痛とともに麻痺がある
- 呼吸が浅い、息がしにくい
- 尿が出にくい、便意が分かりにくい
- 急な血圧上昇、発汗、頭痛を伴う
- 急速に麻痺や感覚障害が進む
- 褥瘡や発熱、尿混濁など二次合併症を疑う所見がある
このような場合は、脊髄損傷やその合併症を考える必要があります。特に外傷後の麻痺や感覚障害は緊急性が高く、早期の固定、画像評価、専門医対応が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず脊椎の保護と神経学的評価を迅速に行うことです。急性期には二次損傷を防ぎ、呼吸循環を安定させ、必要に応じて除圧や固定などの外科的治療を検討します。
- 頚椎・体幹を保護し二次損傷を防ぐ
- 呼吸と循環を安定させる
- 神経学的所見を系統的に評価する
- CTやMRIで損傷部位を確認する
- 必要に応じて手術や固定を行う
- 早期から褥瘡、血栓、肺炎、尿路感染症を予防する
- 排尿排便管理を整える
- 早期からリハビリテーションを開始する
- 生活動作、移乗、車椅子操作、装具使用を練習する
- 社会復帰や住環境調整まで含めて支援する
リハビリでは、残存機能を最大限に使って自立度を高めることが中心になります。完全損傷でも環境調整や動作訓練で生活の幅は広がりますし、不全損傷では歩行再獲得や上肢機能改善が目標になることもあります。つまり、急性期管理と長期リハビリを切れ目なくつなぐことが重要です。
ひとことで言うと
脊髄損傷とは、脊髄が傷つくことで損傷部位より下の運動・感覚・自律神経機能に障害が生じる重い神経外傷です。
関連用語
- 頚髄損傷
- 胸髄損傷
- 不全脊髄損傷
- 完全脊髄損傷
- ASIA impairment scale
- 脊髄ショック
- 自律神経過反射
- 神経因性膀胱
- 痙縮
- 褥瘡
参考文献・出典
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