ワレンベルグ症候群とは
ワレンベルグ症候群(Wallenberg Syndrome)とは、延髄外側症候群(Lateral Medullary Syndrome)とも呼ばれ、延髄の外側部が障害されることにより多彩な神経症状を呈する症候群である。主な原因は椎骨動脈または後下小脳動脈(PICA)の閉塞による脳梗塞であり、椎骨動脈解離が原因となることも多い。延髄外側には、三叉神経脊髄路核、脊髄視床路、前庭神経核、迷走神経核、小脳への線維、交感神経下行路など重要な神経構造が集中しており、これらの障害により特徴的な交代性感覚障害、嚥下障害、めまい、運動失調、ホルネル症候群などが出現する。リハビリテーション医療では、嚥下障害とバランス障害が日常生活動作に大きく影響するため、包括的なアプローチが重要となる。
どこでみるのか
ワレンベルグ症候群の評価は、脳神経外科・神経内科の急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟で行われる。診断には神経学的診察、頭部MRI検査(DWI、MRA)、CT検査が用いられる。リハビリテーション場面では、嚥下機能(嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査)、バランス機能、感覚機能、運動失調、ADL能力を多面的に評価する。嚥下訓練室、訓練室、病棟での日常生活場面など、様々な場所で観察と評価が行われる。
何をみているのか
ワレンベルグ症候群では、延髄外側の障害により以下の症状を評価する。感覚障害(同側顔面と対側半身の温痛覚障害:交代性感覚障害)、嚥下障害(球麻痺による誤嚥、むせ)、嗄声(声のかすれ)、めまい・眼振(前庭神経核の障害)、運動失調(同側上下肢の協調運動障害)、ホルネル症候群(同側の縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下)、悪心・嘔吐などを評価する。四肢の運動麻痺(片麻痺)は原則として認めないことが特徴である。
臨床でどうみるか
臨床場面では、まず神経学的診察により、顔面と四肢の感覚障害のパターン(交代性感覚障害)、眼振の有無と方向、眼瞼下垂・縮瞳(ホルネル症候群)、嗄声、構音障害、指鼻試験・踵膝試験による運動失調を評価する。嚥下機能は、水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)により詳細に評価する。頭部MRI検査(DWI)により延髄外側の梗塞巣を確認し、MRAで椎骨動脈の閉塞や解離を評価する。ただし、急性期には約40%の症例でDWI所見が偽陰性となるため、臨床症状による診断が重要である。
評価で何をみるか
- 頭部MRI(DWI、T2強調画像)による延髄外側の梗塞巣の確認
- MRA検査(椎骨動脈、PICA閉塞・解離の有無)
- 感覚障害の分布(同側顔面と対側半身の温痛覚障害)
- 深部感覚(振動覚、位置覚)の保持
- 嚥下機能(VF、VE、RSST、MWST)
- 誤嚥の有無とタイプ(咽頭期嚥下障害)
- 嗄声、構音障害の程度
- めまい、眼振の有無と方向
- ホルネル症候群(眼瞼下垂、縮瞳、発汗低下)
- 運動失調(指鼻試験、踵膝試験、Romberg試験)
- バランス機能(立位保持、歩行の安定性)
- 悪心・嘔吐の有無
- 四肢筋力(原則として麻痺なし)
- ADL能力(FIM、Barthel Index、特に食事動作)
- 栄養状態(経口摂取量、体重、血清アルブミン)
臨床でよく出る問題
- 嚥下障害による誤嚥性肺炎のリスク
- 経口摂取困難による低栄養、脱水
- 代償性嚥下法の習得困難
- めまい・平衡障害による転倒リスク
- 運動失調による歩行不安定、転倒
- 感覚障害による環境認識の困難
- 嗄声によるコミュニケーション障害
- 悪心・嘔吐による訓練参加困難
- 急性期MRIでの偽陰性による診断遅延
- 嚥下障害の遷延による長期的QOL低下
起こりやすい要因
- 椎骨動脈解離(比較的若年者に多い)
- 動脈硬化(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙)
- 椎骨動脈の閉塞、狭窄
- 後下小脳動脈(PICA)の閉塞
- 心原性塞栓症(心房細動等)
- 頸部の外傷(交通事故、スポーツ外傷)
- 頸部マニピュレーション(整体、カイロプラクティック)
- 高齢化
- 男性に多い傾向
- 脳血管疾患の既往
注意したい症状
- 誤嚥性肺炎の発症(発熱、咳嗽、SpO2低下)
- 窒息のリスク(重度の嚥下障害)
- 脱水、低栄養の進行(体重減少、尿量減少)
- 転倒による外傷(めまい、運動失調)
- 椎骨動脈解離の進行(くも膜下出血のリスク)
- 延髄梗塞の拡大(症状の増悪)
- 呼吸障害の出現(延髄呼吸中枢の障害)
- 重度のめまい・嘔吐による脱水
- 慢性期の嚥下障害残存による社会参加困難
対応の基本
ワレンベルグ症候群の対応は、急性期治療とリハビリテーションが中心となる。急性期には、抗血栓療法(抗血小板薬、抗凝固薬)、脳保護療法、血圧管理を行う。椎骨動脈解離が認められる場合は、抗凝固療法や血管内治療(ステント留置)を考慮する。嚥下障害に対しては、絶食期間を設け、嚥下訓練(間接訓練、直接訓練)を段階的に進める。経口摂取困難例では経管栄養(経鼻胃管、胃瘻)を導入し、栄養状態を維持する。めまい・平衡障害には、前庭リハビリテーションを導入する。運動失調には、Frenkel体操などの協調運動訓練を行う。予後は比較的良好であり、適切なリハビリテーションにより85%以上の患者が1年以内に歩行可能となる。
リハビリの視点
リハビリテーション専門職は、ワレンベルグ症候群の多彩な症状に対し、個別性の高い包括的アプローチを提供する。嚥下障害に対しては、言語聴覚士を中心に、嚥下筋の筋力トレーニング、嚥下反射の誘発訓練、代償性嚥下法(頭部回旋法、顎引き嚥下等)の習得を図る。理学療法士は、前庭リハビリテーション(注視訓練、前庭動眼反射の促通)、バランス訓練、運動失調に対する協調運動訓練を実施する。作業療法士は、ADL訓練(特に食事動作の自立)、感覚障害への代償手段の獲得を支援する。誤嚥性肺炎予防のため、口腔ケア、呼吸理学療法を徹底する。患者教育により、嚥下時の注意点、転倒予防策、栄養管理の重要性を伝える。嚥下障害や感覚障害が後遺症として残ることが多いため、長期的な視点でのQOL維持・向上を最優先とした関わりが重要である。
ひとことで言うと
ワレンベルグ症候群とは、延髄外側の脳梗塞により交代性感覚障害、嚥下障害、めまい、運動失調を呈する症候群であり、四肢麻痺を伴わないが嚥下障害とバランス障害への集中的リハビリが必要である。
関連用語
- 延髄外側症候群(Lateral Medullary Syndrome)
- 椎骨動脈解離(Vertebral Artery Dissection)
- 後下小脳動脈(PICA: Posterior Inferior Cerebellar Artery)
- 交代性感覚障害(Alternating Sensory Disturbance)
- 球麻痺(Bulbar Palsy)
- ホルネル症候群(Horner Syndrome)
- 嚥下障害(Dysphagia)
- 運動失調(Ataxia)
- 前庭リハビリテーション(Vestibular Rehabilitation)
- 嚥下造影検査(VF: Videofluoroscopy)
- 嚥下内視鏡検査(VE: Videoendoscopy)
- 誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia)
参考文献
- HOKUTO ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)ガイドライン
- ニューロテックメディカル ワレンベルグ症候群という脳梗塞の原因と症状
- J-Stage Wallenberg症候群における嚥下障害と付随する症候
- STROKE LAB ワレンベルグ症候群とは?リハビリテーションと予後予測
- ニューロテックメディカル ワレンベルグ症候群の予後を改善するためのリハビリとは
- 今日の臨床サポート Wallenberg症候群
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