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肘が痛い?上腕骨外側上顆炎(テニス肘)とは?その病態と治療法を説明します

 

上腕骨外側上顆炎とは?

テニスのバックハンドストロークで発症することが多いため別名テニス肘と呼ばれるようになりました。

実際は中年の女性に多く、テニスに限らず腕の使いすぎで起こることがほとんどであり、タオルしぽり、戸の開閉などで肘の外側から前腕にかけて痛いのが特徴です。

上腕骨外側上顆には手指伸筋が起始しており、これらの筋群の使いすぎにより筋起始部の変性や微小な断裂が生じると運動痛や自発痛をきたします。

日常生活の中で発症する場合は30〜50歳台の中年女性に多く、短橈側手根伸筋起始部の変性が原因となります。

臨床例では労働による発症が圧倒的に多いと言われています。

【症状・所見】

手を使ったときに肘ないし前腕の近位橈側に生じる痛みが主症状です。

手関節伸筋起始部も緊張がかかることから、タオルを絞ったり、回内位(手のひらを下に向けて)で物を持ち上げたり、掃き掃除をするなどの動作で痛みを訴えることが多いです。

疼痛誘発テストは手関節伸展・肘関節伸展位で行い肘関節外側に痛みが出れば陽性となります。

指で打つ動作ではMP関節の屈曲が生じます。MP屈曲に作用する筋は以下のものがあります。

手関節より近位から起始する外来筋群:浅指屈筋、深指屈筋

手関節より遠位から起始する手内在筋:虫様筋、背側骨間筋、掌側骨間筋

手内在筋はMP関節の屈曲に作用しますが、PIP関節とDIP関節には伸展に作用しますのでタイピングなどではPIPもDIPも屈曲位となるため主に作用するのは外来筋群である浅指屈筋・深指屈筋となります。

浅指屈筋は上腕骨内側上顆と尺骨、深指屈筋も尺骨から起始するためこれらの筋群が過度に収縮しても上腕骨外側上顆にストレスは加わりません。

しかし、浅指屈筋や深指屈筋を有効に作用させる時には手関節を背屈位とする必要があります。

手関節を背屈位にすることで、両筋の筋長が長くなり張力が高くなるためです。これを腱固定作用(テノデーシスアクション)といいます。

 

 

 

 

この写真はテノデーシスアクションを説明したものです

【治療】

患部の安静が原則です。

これは急性期疾患のすべてにおいて言えることですが、ポジティブレスト(積極的安静)で炎症期においてはRICE療法、慢性化しているのであれば温熱療法を行います。(物理療法のページは⇒こちら

重量物を持つときは手関節伸筋起始部に負荷がかからないように前腕回外位(手のひらを上に向けて)持ち上げることで手・肘関節を同時に伸展する動作を避けることを指導します。

また上腕骨外側顆に負荷をかけないようにデザインされた各種のテニス肘ベルトやサポーターも有用です。

抗炎症薬を含んだ湿布や短期間の消炎鎮痛薬も有効です。慢性的に使用し続けると根本となる安静が不十分になる恐れがあるので医師の処方に従うのが安全です。

疼痛が軽快しない場合は短橈側手根伸筋起始部へのステロイド注射も有効であり、疼痛が軽快したらストレッチングと筋力増強訓練を開始します。

ほとんどの症例は保存療法で軽快しますが改善しない例ではニルシュ法という手術もあります。

難治性のテニス肘のなかには核神経深枝の圧迫が含まれている場合があり、神経剥離が必要となる場合もあります。

基本的には予防や初期段階での理学療法を行うことが望ましいです。

上腕骨外側上顆炎の運動解剖学

基本的に外側上顆炎の疼痛はテニスの場合でいうとバックハンドストロークで著明となります。バックハンドではボールに押される形で強い掌屈力(手首を手の平に向ける動作)を受けます。これに対抗するよう強力な背屈力(手首を手の甲に向ける動作)を行いますので、これに作用する前腕伸筋群が遠心性収縮を強いられるため強力な負荷がかかります。

またバックハンドのインパクト時点ではこのような機序ですが、フォロースルーでは肘は伸展で手関節は背屈位か正中位で尺屈(手首を小指側に曲げる)もしくは撓屈し(手首を親指側に曲げる)、体幹を回旋していますのでこのタイミングで痛い場合は肘の過剰な収縮や伸長ストレスによる筋の緊張が疼痛の理由となります。

これらの疼痛はプロセスは異なるものの短橈側手根伸筋や総指伸筋の付着部炎です。

他にもタイピングやピアノの鍵盤、描画の際、生け花のハサミを使用する際などにも疼痛が出現する場合もあります。

これらの原因は何でしょうか?

共通点は手関節の背屈位での動作ということです。

タイピングやピアノの演奏にはテノデーシスアクションによる深指屈筋の緊張が必要ですので、手関節は背屈し前腕伸筋群に負荷がかかるという共通点があります。

疼痛の原因は?

これは前腕伸筋群の過緊張や過使用などによる牽引力が起始部を引っ張るので炎症を誘発し疼痛が生じるというメカニズムです。

上腕骨外側上顆から起始する前腕伸筋群には短橈側手根伸筋、総指伸筋、尺側手根伸筋があります。

これらの筋に負荷をかけるような動作を行えばそのまま疼痛誘発テストが完成です。

 

チェアーテスト(chair test)です。前腕回内位で椅子を把持させて椅子を持ち上げると外側上顆に疼痛が再現できます。

しかし前腕回外位で椅子をもち上げさせると、疼痛は生じません。

チェアーテスト は,疼痛再現性テストとしてだけでなく、患者に日常生活で物をもつ時にどういった肢位を避けるべきかを実感してもらうためにも有用です。

 

トムゼンテスト(Thomsen’s test)です。肘関節伸展位、前腕回内位で、手関節を背屈位に保持させ掌屈方向に抵抗を加えるトムゼンテストでは、上腕骨外側上顆の部分に疼痛が誘発されます。

 

中指伸展テストです。外側上顆炎では第3指を仲展位に保持させ屈曲方向に抵抗を加えることで疼痛が誘発されます。

短側手根仲筋もしくは総指伸筋の張力によって外側上顆に強い牽引力が加わった結果と考えられます。

起始 作用
短橈側手根伸筋 両筋の間の腱膜に共同の起始腱があり、この起始腱が外側上顆を包み込む 肘関節伸展
前腕の回外
手関節の背屈
総指伸筋
尺側手根伸筋 この起始腱からは分離して起始する.

短橈側手根伸筋と総指伸筋は並走しており起始腱は共同腱で上腕骨外側上顆を覆っています。

腕橈滑液包の存在

この起始腱と、その深層の外側側副靭帯機構の間には腕橈滑液包があるのですが、この滑液包は短模側手根伸筋と外側側副靭帯機構の間に生じる摩擦力を軽減しています。

短橈側手根伸筋の緊張が高まると、腕橈滑液包への摩擦力が増強し滑液包炎が生じる可能性もあります。

そのため両筋の柔軟性を高める運動療法や両筋による牽引力を減少させる装具療法が有効になります。

 

肘筋の作用

短橈側手根伸筋と総指伸筋の緊張が十分に低下しても疼痛が改善しない場合もあります。慢性の外側上顆炎のMRIを検討した結果,肘筋に強信号が生じているという報告もあります

肘筋は外側上顆から起始するため前腕伸筋群の仲間でありながら、発生学的には下腿三頭筋の外側頭の続きでもあるので上腕からも前腕・手部からの張力を伝達されます。

作用は肘の伸展で前腕回内位では尺骨の内反制動作用を持っています。

テニスのバックハンドのインパクト時には前腕回内位で肘関節に内反ストレスが生じます。そのストレスに肘筋が拮抗した結果疼痛が生じると考えられます。

このように外側上顆近傍の触診やそれぞれの収縮をテストすることで丁寧に対象筋を探す必要があります。

上腕三頭筋の記事は⇒こちら

肘筋の記事にちては⇒こちら

回内・回外の可動域制限や動作時痛

前腕の回内/回外運動を行うには橈尺関節の動きが必要です。そして橈尺関節には近位橈尺関節と遠位橈尺関節があります。

このどちらかの関節運動が障害されると前腕の回内外運動が制限されることとなります。

近位榜尺関節は腕橈関節、腕尺関節とともに肘関節複合体に分類されるため、外側上顆炎のように肘関節の障害がある場合にはこの関節の運動も障害される可能性があります。

そのためテニス肘かなと思ったら上記のテスト以外にもこの様に回内外の左右差も確認しましょう。

また回内外の動作の動作制限には肘関節の外側支持機構も関与しています。

外側支持機構である外側側副靱帯は以下の4つの靭帯から構成されます。

・橈骨輪状靭帯:骨切痕の前方から,携骨頭を包み込むように走行し橈骨切痕の後方に至り、肘関節包と結合する

・橈側側副靭帯:上腕骨外側上顆から扇状に広がり、橈骨輪状靭帯の最外側部表層に付着

・副靭帯:橈骨輪状靭帯と尺骨回外筋稜を結ぶ

・外側尺側側副靭帯:外側上顆から尺骨回外筋稜を結ぶ

欠損や痕跡程度の存在であることの多い外側尺側側副靭帯以外の外側支持機構はすべて機骨輪状靭帯に付着します。

そのため、テニスのバックハンドストロークのように肘関節に内反ストレスが加わると橈側側副靭帯が緊張することで橈骨輪状靭帯にも緊張が加わります。

また外側上顆炎で問題となる短橈側手根伸筋や総指伸筋も橈骨輪状靭帯から起始します。

そのため、外側上顆炎ではこれらの筋からの牽引力によって橈骨輪状靭帯の微細損傷や瘢痕化が生じることがあります。

橈骨輪状靭帯は近位橈尺関節の安定性を高める靭帯であるため、前腕の回内/回外運動に制限が生じる可能性があります。

橈骨頭の移動と腕橈関節包への圧迫

前腕が回内運動をする時には橈骨と尺骨が交差するため、橈骨頭は2mm程度外側に移動します。

仮に前腕の回内運動が正常に行えない状態で回内運動が強制されると軸回転ができず、橈骨頭は過剰に外側に移動することになり短機側手根伸筋と外側支持機構の間に介在する腕滑液包への圧縮応力(圧迫ストレス)が増加します。

前腕の回内/回外運動の制限を除去することが外側上顆炎の運動療法において重要になります。

 

上腕骨外側上顆炎の理学療法

急性期においてはRICE療法が適応であり、慢性期においては血流確保のため温熱療法が適応されます。

ストレッチにおいては前腕伸筋群のストレッチです。

また前腕の回内外の可動域訓練を行いましょう。

まずはこのように疼痛を除去することが優先です。

またサポーターやテーピングで起始部に負荷がかからない様に補助しましょう。

改善には休息と動作指導が必要です。前腕伸筋群のストレッチや回内・回外のストレッチを指導しましょう。

可動域訓練位おいては適切なアライメントを手に入れるためにまずは肘屈伸の可動域を優先しその後、回内外の可動域訓練を行うとよいでしょう。

回内外の可動域制限の因子は上下橈尺関節、前腕骨間膜があります。

上橈尺関節の回内/回外運動では橈骨にspinmotion という軸回旋運動が生じます。しかし橈骨の形状は前後径が長いため回内に伴い2mm程度外側に移動します。

この移動を制御する橈骨輪状靭帯の伸張性が低下すると橈骨の外側への移動が制限されますので、前腕回内運動時の上橈尺関節における橈骨頭の離開を徒手的に行い回内可動域を拡大すると効果的です。

モビライゼーションは大きく行わず最初は小さく動かして疼痛の反応を見ながら行ってください。

筋力強化も必要ですので総指伸筋や短橈側手根伸筋の筋力強化も行いましょう。

工夫として疼痛が出ない様に求心性収縮からスタートして、等尺性収縮、遠心性収縮という順番で段階的に進めていけば疼痛に対処しながら実用的な筋力増強訓練が行えます。

 

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