ウォーミングアップの実際
以前まではウォーミングアップといえばスタティックストレッチが主流でした。
むかしの学校の準備運動などは反動を付けずに行いなさいと言われたものですが、この様な静的ストレッチ(スタティックストレッチ)は近年では使われなくなってきました。
スタティックストレッチは筋の伸張反射を抑制してしまうため、最大筋力が出せずパフォーマンスが低下することが報告されています。
そのためウォーミングアップ時にスタティックストレッチを取り入れる場合は、体温が上がったあと、短時間(30秒未満程度)が良いとされています。
一方ウォーミングアップに適しているストレッチはダイナミックストレッチ、PNFストレッチ、バリスティックストレッチがあります。
これらは筋を収縮させながら関節可動域を広げることができます。ただし、反動をつけて行うバリスティックストレッチは強度が高く筋や関節への負担が大きいため次のポイントを抑えましょう。
1.筋温が上がったあと
2.小さい動きから大きい動き
ウォーミングアップの方法
ウォーミングアップでは軽い全身運動、ダイナミック(動的)ストレッチ、スタティック(静的)ストレッチ、主運動に近い専門的な動きをうまく組み合わせて行います。
主要部位の軽いほぐし
足首・手首まわし、腰まわし、膝の屈伸、膝回しなど運動でよく使う部位を軽くほぐします。
全身運動(ダイナミックストレッチを含む)
筋温を温めるために、ジョギング~ランニングなど全身を動かす動きを取り入れます。
スタティックストレッチ
筋温が温まったところでスタティックストレッチを行うことで関節可動域を広げます。ただし、ウォーミングアップで行うスタティックストレッチは60秒以上行うとパフォーマンスが低下することが報告されているため、30秒程度の短い時間にします。
もしくはこのスタティックなストレッチは行わない場合もあります。クールダウンに利用する方が良いかもしれません。この伸張反射が低減することによる一過的な筋力低下は30分程度持続すると言われていますので、試合直前などではなく朝起きた時などもう少し長い時間を見て行うと良いでしょう。
スタティックストレッチの方法は反動を付けずに20~30秒程度伸長する方法が一般的です。自分で行うセルフストレッチと誰かに押してもらったり引いてもらったりするパートナーストレッチがあります。
競技によりますがいつでもできるようにセルフストレッチを覚えるのは大切です。
またパートナーストレッチは自分では十分にストレッチをかけることが出来ない部分を伸長するのに適しています。
ダイナミックストレッチ
運動で使う肩甲骨まわりや股関節まわりなど、動かしながらさらに可動域を広げるようにします。動かすことでさらに筋温、深部体温も上昇させることができます。
筋を収縮させながら大きな可動域を作っていくので、動作時の可動域の確保という意味で適しています。伸張反射も低減させず過度に筋長が伸びない事から筋力低下を招かないストレッチです。
運動前のパフォーマンス向上に使用しましょう。
バリスティックストレッチ
勢いや反動 をつけて筋を伸張させる⽅法です。 各競技の動作 に合わせたストレッチが⾏いやすく、筋⾁の弾性⼒を⾼めるという特徴があります。
この方法は伸張反射を誘発するので、やりすぎると筋肉痛になる場合もありますが、低負荷運動で行うのであれば滅多に故障にはつながりません。
スポーツ前の運動としては可動域の拡大になると同時に筋力低下も起こさないのでダイナミックストレッチを一緒に行うのが良いでしょう。
専門性のある動き
ダイナミックストレッチから、主運動の動きに近づけていきます。
例えば陸上競技の場合は、もも上げやスタートからの蹴り出し動作、バドミントンの場合はフットワークや素振りなど、種目によって行う内容は異なります。
剣道の素振りなどなども勿論ウォーミングアップになるのですが、パフォーマンスを上げるために回数よりも速度やすり足など全身が試合に近い形で行うことで、全身の動きやすさが向上します。
ウォーミングアップに関するさまざまな研究が行われていますが、全身運動としてのウォーミングアップの方法やその効果を検証する目的であるパフォーマンスが本当に向上したのか?
障害が予防出来たのか?といった視点で評価する必要があります。
しかし、これらの結果には個人の身体機能やコンディション、チームスポーツであればポジションや戦術など、ほかの要因も影響してしまうために、科学的な根拠に基づいたウォーミングアップ方法(時間や種類)が確立されているとはいいにくいのが現状です。
走力や投力や泳力など比較しやすい能力で前後の違いを検討すると効果が見やすくなるかもしれません。
時間は5分~30分程度がウォーミングアップの範囲でしょう。
勿論、競技性によってはもう少し長いウォーミングアップもあり得ます。
徐々に心臓や肺への血液流量を増やして神経速度や筋温を上げるのが目的なので、格闘技の様な短時間で決戦しハイパフォーマンスからスタートするような競技ではウォーミングアップはかなり入念に行います。
ウォーミングアップにかける時間とは?
それでは更に詳細にみていきましょう。
局所的な部位のパフォーマンスの変化とウォーミングアップの関係に関しては多くの先行研究があります。
筋力トレーニングの前後にそれぞれ20分の自転車エルゴメータを行い、遅発性筋肉痛(DOMS)の出現の有無や程度を調べた研究より、運動2日後の大腿四頭筋の痛みはウォーミングアップを行ったほうが軽減されるという結果が報告されています。
また5分間のジョギングを行うことでハムストリングスの柔軟性が向上し、スタティックストレッチと組み合わせることでさらに効果的であったという報告もあります。
このように筋の疲労回復や柔軟性向上を目的としたウォーミンプは5〜30分程度が目安になります。
この図では5分から10分程度の運動で十分に筋温が温まってきていますし、直腸温は20分から30分程度で十分に温まるのが分かります。
ウォーミングアップは目的に応じて内容を選択することが重要
体温や筋温を上昇させる以外のウォーミングアップは、運動の種目に合わせ様々な方法で実施します。
前述したストレッチやエルゴメータ―以外にもにジョギングの様な低負荷な有酸素運動もウォーミングアップとしてよく行われます。
スタティックストレッチは筋紡錘の閾値が上がるため、伸張反射が誘発されにくく、プライオメトリクスのような大きなパワーを発揮する事が出来ず、パフォーマンスの低下や、それに伴う怪我のリスクが高まる可能性があります。
ウォーミングアップとして行う場合は、過度に伸ばしすぎないことが重要です。
身体を温めるだけでなく実際の動作を軽めに反復することで疲労を避け、筋血流量を増やしパフォーマンスを高めます。
この時の反復するイメージが大脳の興奮水準を高め実際に行う動作の精度を高めるのです。
このイメージは普段のイメージトレーニングにも活かせますし、特定の所作で集中力を高めるルーティンテクニックにもなります。
まさに心と身体のズレを一致させていく作業がウォーミングアップと言えます。