網膜剥離

網膜剥離とは

網膜剥離とは、眼球の内側にある網膜が、その下の網膜色素上皮層から剥がれてしまう病態であり、放置すると不可逆的な視力障害や失明に至る眼科救急疾患です。網膜は光を感知して視覚情報を脳に伝える重要な組織であり、10層の神経層から構成されています。網膜剥離は、発症機序により裂孔原性網膜剥離(rhegmatogenous retinal detachment)、牽引性網膜剥離(tractional retinal detachment)、滲出性網膜剥離(exudative retinal detachment)の3つに分類されます。最も頻度が高いのは裂孔原性網膜剥離であり、網膜に裂孔(破れ目)や円孔が生じ、そこから液化した硝子体液が網膜下に侵入して剥離が進行します。発症頻度は10万人あたり年間10~20人程度とされ、中高年に多く、近視、特に強度近視(-6D以上)は最大のリスク因子です。早期発見と早期手術により視機能の回復が可能ですが、黄斑部が剥離すると視力予後は著しく不良となります。

どこでみるのか

網膜剥離の診断と治療は眼科で行われます。突然の飛蚊症増加、光視症(暗所で光が見える)、視野欠損などの症状が出現した場合、速やかに眼科を受診する必要があります。診察では、散瞳薬により瞳孔を開き、眼底検査(倒像鏡検査、細隙灯顕微鏡検査、三面鏡検査)により網膜の状態を詳細に観察します。光干渉断層計(OCT)により網膜の断層像を撮影し、剥離の範囲と黄斑部の状態を評価します。超音波検査は、硝子体出血や白内障により眼底が透見できない場合に有用です。治療は、網膜裂孔のみの段階では外来でのレーザー光凝固術(網膜光凝固)により裂孔周囲を焼き固めて剥離の進行を予防できますが、すでに剥離が進行している場合は入院下での手術(強膜バックリング手術、硝子体手術)が必要です。術後は体位制限(うつ伏せ姿勢など)が数日から数週間必要となることがあります。リハビリテーション部門では、術後の視機能評価、残存視野を活用したADL訓練、ロービジョンケアが行われます。

何をみているのか

網膜剥離の評価では、剥離の範囲と位置、裂孔や円孔の部位と大きさ、黄斑部の状態(剥離しているか温存されているか)、硝子体の状態(液化、出血、混濁)、増殖性硝子体網膜症(PVR)の有無と程度を総合的に観察します。黄斑部が剥離している場合(macula-off)は視力予後が不良であり、黄斑部が温存されている場合(macula-on)は緊急手術により良好な視力回復が期待できます。剥離の範囲は、眼底を12時間の時計盤に見立てて記載し(例:2時~7時方向の剥離)、剥離の高さ(浅い、高い、全剥離)も評価します。網膜裂孔は、馬蹄形裂孔、弁状裂孔、円孔、巨大裂孔などの形態があり、部位と大きさにより手術方法が決定されます。増殖性硝子体網膜症(PVR)は、網膜剥離後に網膜表面に増殖膜が形成され、牽引により剥離が再発しやすくなる重篤な合併症です。

臨床でどうみるか

臨床現場での網膜剥離の評価は、まず詳細な問診から始まります。症状の発症時期と経過(いつから、急性か徐々か)、飛蚊症の増加(急に黒い点や糸くずのようなものが見える)、光視症の有無(暗所で稲妻様の光が見える)、視野欠損の部位と範囲(どの方向が見えないか、カーテンがかかったように見える)、視力低下の程度を詳細に聴取します。既往歴として、強度近視の有無、眼外傷や眼球打撲の既往、白内障手術などの眼科手術歴、家族歴(網膜剥離の家族歴)を確認します。

視力検査では、遠見視力と近見視力を測定し、矯正視力も確認します。黄斑部が剥離すると視力は著しく低下します。視野検査により、欠損部位と範囲を定量的に評価します。対座法(confrontation test)により簡易的に視野欠損をスクリーニングできます。

眼底検査が最も重要であり、散瞳薬(トロピカミド、フェニレフリン)により瞳孔を散大させた後、倒像鏡、細隙灯顕微鏡、三面鏡などを用いて網膜全周を詳細に観察します。網膜剥離は灰白色に隆起した網膜として観察され、網膜血管の蛇行、裂孔部位、剥離液の貯留状態を確認します。黄斑部の状態(剥離の有無、浮腫、前黄斑膜の有無)は視力予後に直結するため特に注意深く観察します。

光干渉断層計(OCT)により、網膜の層構造を高解像度で撮影し、黄斑部の状態、網膜下液の量、網膜の厚さを定量的に評価します。

超音波Bモード検査は、硝子体出血や高度白内障により眼底が透見できない場合に、網膜剥離の有無と範囲を評価するために実施します。

評価で何をみるか

網膜剥離の臨床評価では以下の項目を系統的に確認します。

自覚症状として、飛蚊症の有無と増加の程度(急激な増加は要注意)、光視症の有無と出現部位、視野欠損の部位と範囲(上方欠損、下方欠損、中心欠損、周辺欠損)、視力低下の程度と進行速度、視野のゆがみや変視症の有無を詳細に聴取します。

視力測定として、遠見視力(裸眼および矯正)、近見視力、両眼視と単眼視の差を評価します。黄斑部が剥離している場合は視力が0.1以下に低下します。

視野検査として、Goldmann視野計やHumphrey自動視野計による定量的視野測定、対座法による簡易評価を行い、欠損パターンから剥離部位を推定します。

眼底所見として、網膜剥離の範囲(時計盤表記:何時から何時方向、剥離の象限数)、剥離の高さ(浅い、中等度、高度、全剥離)、黄斑部の状態(macula-onかmacula-offか)、網膜裂孔の部位・数・大きさ・形態(馬蹄形裂孔、円孔、弁状裂孔、巨大裂孔)、硝子体の状態(後部硝子体剥離の有無、硝子体出血、混濁、液化)、増殖性硝子体網膜症(PVR)の有無とグレード(A~D)、網膜血管の走行と異常を詳細に記録します。

OCT所見として、黄斑部の網膜層構造、網膜下液の量と分布、中心窩の状態、網膜厚、内境界膜や前黄斑膜の有無を評価します。

超音波所見として、透見不良例における網膜剥離の範囲、硝子体出血の程度、PVRの有無を確認します。

全身状態として、糖尿病の有無(増殖糖尿病網膜症による牽引性網膜剥離のリスク)、高血圧、腎疾患、血液凝固異常、妊娠の有無(妊娠高血圧症候群による滲出性網膜剥離)、外傷歴を確認します。

術後評価として、網膜の復位状態、視力の回復程度、眼圧、炎症の程度、合併症(白内障進行、緑内障、再剥離、PVR、感染)の有無を継続的に観察します。

臨床でよく出る問題

網膜剥離に関連して臨床現場でよく遭遇する問題として、まず診断の遅れが最も深刻です。初期症状である飛蚊症や光視症を「よくあること」と軽視し、受診が遅れると、黄斑部まで剥離が進行し、手術が成功しても視力回復が不良となります。macula-onの段階で手術できれば視力予後は良好ですが、macula-offになると手術後も視力0.1~0.3程度に留まることが多く、日常生活に大きな支障が残ります。

術後の再剥離は約10~15%の頻度で生じ、特に増殖性硝子体網膜症(PVR)を合併すると再手術が必要となり、視力予後はさらに悪化します。術後の体位制限(うつ伏せ姿勢など)が守られない場合、ガス注入後のガス移動が不十分で復位不良となることがあります。

術後合併症として、白内障の進行が高頻度にみられ、特に硝子体手術後は数ヶ月から数年で白内障が進行します。眼圧上昇や緑内障、眼内炎、硝子体出血、黄斑上膜、黄斑浮腫などの合併症も生じ得ます。

両眼性に発症するケースでは、片眼が網膜剥離を起こした場合、反対眼も高リスク(約10~15%)であり、定期的な眼底検査が必須です。

強度近視患者では、網膜が薄く脆弱であるため、網膜剥離のリスクが正常眼の数倍から数十倍に上昇します。格闘技や激しいスポーツによる眼球打撲も網膜剥離の誘因となります。

高齢者では、後部硝子体剥離(加齢により硝子体が網膜から剥がれる生理的変化)の際に網膜裂孔を生じ、そこから網膜剥離に進行するリスクがあります。

視機能障害による日常生活への影響として、読書困難、運転困難、歩行時の段差認識不良、転倒リスク増大、就労制限、心理的ストレス(不安、抑うつ)が生じます。

起こりやすい要因

網膜剥離が起こりやすい主な要因として、強度近視(屈折度-6D以上)が最も重要なリスク因子です。近視では眼軸長が伸展し、網膜が薄く引き伸ばされるため、裂孔形成と剥離のリスクが高まります。

加齢に伴う後部硝子体剥離は、50歳以上で頻度が増加します。硝子体が網膜から剥がれる際に網膜が牽引され、裂孔を生じることがあります。特に、硝子体と網膜の癒着が強い部位(赤道部、視神経乳頭周囲)で裂孔が生じやすくなります。

眼外傷や眼球打撲は、直接的な網膜損傷や硝子体牽引により裂孔を生じます。格闘技、ボクシング、サッカー、バスケットボールなどコンタクトスポーツはリスクが高まります。

白内障手術やその他の眼科手術後は、術中の硝子体牽引や術後の炎症により網膜剥離のリスクが若干増加します。

家族歴として、網膜剥離の家族歴がある場合はリスクが2~3倍に上昇します。遺伝的に網膜や硝子体の脆弱性が高い可能性があります。

格子状変性、囊胞様変性、網膜周辺部変性などの網膜変性疾患は、網膜が薄く弱くなり、裂孔形成のリスクが高まります。

糖尿病網膜症の増殖期では、線維血管増殖膜が形成され、硝子体牽引により牽引性網膜剥離を生じます。

ぶどう膜炎、Vogt-小柳-原田病、悪性高血圧、妊娠高血圧症候群などでは、滲出液が網膜下に貯留し、滲出性網膜剥離を引き起こします。

注意したい症状

網膜剥離を疑う重要な症状として、まず飛蚊症の急激な増加が挙げられます。突然、黒い点や糸くず、虫のようなものが視野内に多数現れた場合は、網膜裂孔形成や硝子体出血を示唆し、緊急受診が必要です。

光視症(photopsia)は、暗所や閉眼時に稲妻様、火花様の光が見える現象であり、網膜への機械的刺激(硝子体牽引)を反映します。特に側方視での光視症は要注意です。

視野欠損の出現は、網膜剥離が進行している徴候です。初期には周辺視野から欠損が始まり、「カーテンや幕が下りてきたように見える」「視野の一部が暗くなった」と訴えます。欠損部位は剥離部位に対応し、下方の網膜が剥離すると上方視野が欠損します(網膜像は上下左右反転)。

中心視力の低下や歪みは、黄斑部に剥離が及んだことを示し、緊急手術が必要です。視力が急激に低下し、文字が読めない、顔が認識できないなどの症状が出現します。

眼痛はほとんどありませんが、網膜剥離自体は無痛性であることが診断の遅れにつながります。ただし、炎症を伴う場合や眼圧上昇を伴う場合は眼痛が出現します。

突然の視力喪失や失明は、全網膜剥離や黄斑部剥離の進行を示唆し、最も緊急性の高い状態です。

対応の基本

網膜剥離への対応は、病期と病態により異なります。網膜裂孔のみで剥離が進行していない段階では、外来でのレーザー光凝固術(網膜光凝固)により、裂孔周囲を焼き固めて剥離の進行を予防できます。この段階での治療が理想的であり、視力予後は良好です。

網膜剥離が進行している場合は、入院下での手術治療が必要です。手術方法は剥離の範囲、裂孔の位置と大きさ、増殖性変化の有無により選択されます。

強膜バックリング手術は、眼球の外側からシリコンスポンジやバンドを縫着し、眼球を内側に圧迫することで裂孔を閉鎖し、網膜を復位させます。比較的若年で、裂孔が限局している場合に選択されます。

硝子体手術は、眼内から硝子体を切除し、網膜への牽引を解除した後、網膜を復位させ、裂孔周囲をレーザー凝固またはジアテルミー(電気凝固)で固定し、最後に眼内にガスや空気、シリコンオイルを注入して網膜を押さえます。複雑な剥離、増殖性硝子体網膜症、硝子体出血合併例などで選択されます。

術後は体位制限が重要であり、ガス注入の場合、ガスが上方に移動する性質を利用して裂孔部分を圧迫するため、裂孔の位置に応じてうつ伏せ姿勢や側臥位を数日から数週間維持する必要があります。この体位制限は治療成功に不可欠ですが、患者にとって身体的・精神的負担が大きく、看護ケアやリハビリテーション的支援が重要です。

術後の眼内ガスが残存している期間(数週間)は、飛行機搭乗や高地への移動が禁止されます(気圧変化によりガスが膨張し、眼圧が異常上昇するため)。

定期的な眼科受診により、網膜の復位状態、再剥離の有無、眼圧、炎症の程度、白内障進行の有無を継続的に観察します。

リハビリの視点

リハビリテーション専門職にとって、網膜剥離患者への介入は、視機能障害に対する適応支援とADL・QOLの維持・向上が中心となります。術後早期は安静と体位制限が必要であり、この期間の身体的・精神的負担を軽減する支援が重要です。

うつ伏せ姿勢や特定の体位を長時間維持することは、頸部痛、腰痛、肩痛、顔面浮腫、褥瘡などを引き起こすため、適切なポジショニング(クッション、枕の使用)、定期的な体位微調整、軽度のストレッチングやマッサージにより苦痛を軽減します。ただし、眼球への圧迫や急激な体動は避けるよう指導します。

視機能評価として、術後の視力、視野、コントラスト感度、立体視を測定し、残存視機能を把握します。黄斑部が剥離していた場合は、術後も中心視力の回復が不十分であり、ロービジョンケアが必要となります。

ロービジョンケアでは、残存視機能を最大限活用するため、拡大鏡、拡大読書器、遮光眼鏡、高コントラスト教材、音声読み上げソフトなどの視覚補助具を導入します。照明の工夫、文字サイズの拡大、コントラストの強調により、読書や細かい作業の継続を支援します。

ADL訓練では、視野欠損や視力低下に応じた動作方法を指導します。歩行では、視野欠損側への注意喚起、白杖の使用検討、段差や障害物の認識方法を訓練します。階段昇降では手すりの活用と一段ずつの確実な足の運びを指導します。食事では、食器の配置の工夫、視野欠損側への注意の向け方を指導します。更衣、整容、家事動作においても、視覚情報を補う工夫(触覚、聴覚の活用)を指導します。

環境調整として、自宅の動線上の障害物除去、照明の増強、段差の解消、色彩コントラストの強調、視覚的目印の設置などを提案します。

心理的支援も重要であり、視機能障害に対する不安、抑うつ、将来への恐怖に対して、傾聴と共感的理解を提供し、必要に応じて心理カウンセリングや同病者交流の機会を紹介します。

社会復帰支援として、就労制限の有無、職場環境の調整(照明、画面設定、作業配置)、復職時期、障害者手帳の取得、福祉サービスの活用について、医師、ソーシャルワーカーと連携して支援します。

両眼性に視機能障害が残存する場合は、身体障害者手帳(視覚障害)の取得により、福祉サービス(同行援護、日常生活用具給付、補装具給付)が利用可能となります。

家族教育として、患者の見え方の理解、適切な声かけや誘導方法、環境調整の工夫、緊急時の対応(再剥離の兆候)について説明します。

ひとことで言うと

網膜剥離は網膜が眼底から剥がれて視力障害を引き起こす眼科救急疾患であり、飛蚊症や視野欠損が出現したら直ちに受診が必要です。リハビリテーションでは、残存視機能を最大限活用し、視覚補助具と環境調整によりADLとQOLの維持を支援します。

関連用語

網膜
硝子体
飛蚊症
光視症
視野欠損
黄斑部
網膜裂孔
強度近視
後部硝子体剥離
ロービジョンケア

参考文献

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