もやもや病とは
もやもや病とは、内頸動脈終末部が進行性に狭窄・閉塞し、その周囲に異常な側副血行路(もやもや血管)が発達する原因不明の脳血管疾患です。疾患名の「もやもや」は、脳血管造影検査で見られる側副血行路が、煙草の煙がもやもやと立ち上るように見えることに由来します。日本で最初に報告され、世界的にも日本を含む東アジア(韓国、中国)に多く発症する疾患であり、日本における有病率は10万人あたり約10人、発症率は10万人あたり年間約0.5人とされています。発症には二峰性のピークがあり、小児期(510歳)と成人期(3040歳代)に多く発症します。小児では脳虚血症状(一過性脳虚血発作、脳梗塞)が主体であり、成人では脳出血を伴うことが多く、予後不良となります。厚生労働省の指定難病(旧特定疾患)に指定されており、医療費助成の対象となります。遺伝的要因の関与が示唆されており、家族内発症が約10~15%にみられます。
どこでみるのか
もやもや病の診断と治療は、脳神経外科、神経内科で行われます。一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞、脳出血、痙攣発作、頭痛などの症状で受診した際に、画像検査により発見されます。診断には、MRI(磁気共鳴画像)、MRA(磁気共鳴血管造影)、脳血管造影検査が用いられます。特に脳血管造影検査は確定診断に必須であり、内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と特徴的なもやもや血管を直接観察できます。脳血流検査(SPECT、PET)により、脳血流予備能の低下を評価し、手術適応を判断します。治療は、内科的治療(抗血小板薬、脳保護薬)と外科的治療(血行再建術)があります。血行再建術には直接バイパス術(STA-MCAバイパス術)と間接バイパス術(EDAS、EMS、EMSGなど)があり、患者の年齢、病態、血管の状態により選択されます。小児では間接バイパス術が主流であり、成人では直接バイパス術が選択されることが多くなります。リハビリテーション部門では、脳梗塞や脳出血後の運動機能障害、高次脳機能障害、言語障害に対する機能訓練、ADL訓練が実施されます。
何をみているのか
もやもや病の評価では、内頸動脈終末部の狭窄・閉塞の程度、もやもや血管の発達程度、脳血流の低下範囲、脳梗塞や脳出血の有無と部位、側副血行路の状態を総合的に観察します。鈴木病期分類(Suzuki stage)により、脳血管造影所見を6段階(stage I~VI)に分類し、病状の進行度を評価します。Stage Iは内頸動脈終末部の狭窄のみ、Stage IIは内頸動脈終末部のもやもや血管の出現、Stage IIIはもやもや血管の増強、Stage IVはもやもや血管の減少と外頸動脈系からの側副血行路の発達、Stage Vはもやもや血管のさらなる減少、Stage VIはもやもや血管の消失と広範な脳血流低下を示します。MRIでは、脳梗塞(新旧の梗塞巣、分水嶺梗塞、ラクナ梗塞)、脳出血(脳室内出血、脳実質内出血)、白質病変の有無と範囲を評価します。脳血流検査では、安静時脳血流とアセタゾラミド負荷後の脳血流を測定し、脳血流予備能の低下を定量的に評価します。予備能が低下している領域は、将来の脳梗塞リスクが高く、手術適応の判断材料となります。
臨床でどうみるか
臨床現場でのもやもや病の評価は、まず詳細な問診から始まります。症状の発症時期と経過、一過性脳虚血発作(TIA)のエピソード(片側の脱力、しびれ、言語障害が数分から数十分で改善)、脳梗塞や脳出血の既往、痙攣発作の有無、頭痛の性質と頻度、認知機能の変化を聴取します。小児では、泣く、過呼吸、熱い食べ物を食べるなどの誘因で一過性の脱力や意識障害が出現することが特徴的です(過換気により脳血管が収縮し、元々低下している脳血流がさらに減少するため)。成人では、突然の頭痛や意識障害で発症する脳出血が多くみられます。家族歴(もやもや病、若年性脳卒中)の有無も重要です。
神経学的診察では、意識レベル(JCS、GCS)、脳神経機能(視野、眼球運動、顔面運動、嚥下機能)、運動機能(筋力、筋緊張、協調運動)、感覚機能(表在感覚、深部感覚)、反射(腱反射、病的反射)、高次脳機能(失語、失行、失認、注意障害、記憶障害、遂行機能障害)を系統的に評価します。
画像検査として、頭部MRI/MRAでは、内頸動脈終末部の狭窄・閉塞、もやもや血管(flow void:血流の速い部分が黒く抜けて見える)、脳梗塞や脳出血の有無と部位、白質病変の程度を評価します。T2*強調画像やSWI(susceptibility weighted imaging)では、微小出血や静脈系の異常を検出できます。
脳血管造影検査は確定診断に必須であり、内頸動脈、外頸動脈、椎骨動脈を選択的に造影し、狭窄・閉塞の部位と程度、もやもや血管の形態と分布、側副血行路(前・後交通動脈、軟膜吻合、外頸動脈系からの側副血行路)を詳細に観察します。
脳血流検査(SPECT、PET)では、安静時とアセタゾラミド負荷後の脳血流を測定し、脳血流予備能を評価します。予備能が低下している領域は手術適応となります。
評価で何をみるか
もやもや病の臨床評価では以下の項目を系統的に確認します。
臨床症状として、一過性脳虚血発作(TIA)の頻度と持続時間、脳梗塞の既往と後遺症の程度、脳出血の既往、痙攣発作の有無と頻度、頭痛の性質(拍動性、持続性)と強度、認知機能の変化(記憶力低下、注意力低下、遂行機能障害)、小児では学業成績の低下や発達の遅れを詳細に評価します。
誘発因子として、小児では泣く、過呼吸、熱い食べ物を食べる、管楽器の演奏などがTIAを誘発することが特徴的です。成人では、脱水、ストレス、過労が症状悪化の誘因となります。
神経学的所見として、意識レベル、運動麻痺(片麻痺、単麻痺)の有無と程度、感覚障害の分布、失語症(運動性失語、感覚性失語、全失語)の有無、構音障害の程度、視野障害(同名半盲)、高次脳機能障害(失行、失認、注意障害、記憶障害、遂行機能障害)、痙攣発作の型(部分発作、全般発作)を評価します。
画像所見として、MRI/MRAでは内頸動脈終末部の狭窄・閉塞の程度、もやもや血管の発達程度、脳梗塞の部位と範囲(大脳皮質、皮質下、基底核、分水嶺領域)、脳出血の部位(脳室内、視床、基底核)、白質病変の広がり、脳萎縮の有無を評価します。
脳血管造影所見として、鈴木病期分類(Suzuki stage I~VI)により病状の進行度を判定し、側副血行路の発達状況(前・後交通動脈、軟膜吻合、外頸動脈系)、左右差の有無を確認します。
脳血流検査所見として、安静時脳血流の低下領域、アセタゾラミド負荷後の脳血流予備能の低下領域(steal現象の有無)、左右差を定量的に評価します。予備能が著しく低下している領域は手術適応となります。
機能評価として、ADL能力(Barthel Index、FIM)、歩行能力(歩行速度、歩行距離、杖の使用)、高次脳機能(MMSE、HDS-R、WAIS、WCST)、言語機能(SLTA)、QOL(SF-36)を測定します。
小児では、知的発達(WISC、田中ビネー知能検査)、学業成績、社会適応能力を評価します。
就学・就労状況、社会参加の程度、介護者の負担も評価します。
臨床でよく出る問題
もやもや病に関連して臨床現場でよく遭遇する問題として、まず診断の遅れが挙げられます。小児の一過性脳虚血発作は、てんかん、失神、片頭痛、心因性発作などと誤診されやすく、適切な画像検査が行われないと診断が遅れます。成人でも、若年性脳梗塞や脳出血の原因として、動脈硬化、高血圧、血管奇形などが先に疑われ、もやもや病の診断に至らないことがあります。
脳梗塞の再発は、内科的治療のみでは十分に予防できず、特に脳血流予備能が低下している患者では手術を行わない場合の年間脳梗塞発症率は約10~15%と高率です。
脳出血は、成人のもやもや病において重篤な合併症であり、脳室内出血や視床出血を生じると、意識障害、水頭症、重度の運動麻痺や感覚障害が残存します。出血後の手術適応の判断は慎重に行う必要があります。
術後の過灌流症候群は、血行再建術後に元々低灌流であった脳組織に急激に血流が増加し、脳浮腫、頭痛、痙攣、一過性神経症状、脳出血を引き起こす合併症です。術後数日から数週間で発症し、厳格な血圧管理が必要です。
小児の認知機能障害や学習障害は、反復する虚血発作や慢性的な脳血流低下により、知的発達の遅れ、注意欠陥、記憶障害、遂行機能障害が生じます。早期の手術により予防・改善が期待できます。
心理社会的問題として、若年での発症により、就学・就労、結婚、妊娠・出産への不安が大きく、長期的な心理的サポートが必要です。妊娠・出産は脳血流動態に影響を与え、症状悪化のリスクがあるため、慎重な管理が必要です。
家族内発症への不安として、遺伝的要因が関与するため、子どもへの遺伝を心配する患者や家族が多く、遺伝カウンセリングや家族のスクリーニング検査(MRA)が必要となることがあります。
起こりやすい要因
もやもや病の発症要因は未だ完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因の両方が関与すると考えられています。遺伝的要因として、RNF213遺伝子(染色体17q25.3)の多型がもやもや病の最大の感受性遺伝子として同定されています。この遺伝子変異を持つ人は、持たない人に比べて数十倍から数百倍もやもや病を発症しやすくなります。ただし、遺伝子変異を持っていても必ず発症するわけではなく、浸透率は低いとされています。
家族内発症が約10~15%にみられ、一親等親族(両親、兄弟姉妹、子ども)では一般人口の約40倍の発症リスクがあります。
東アジア人(日本人、韓国人、中国人)に圧倒的に多く発症し、人種的・民族的背景が発症に関与していることが示唆されています。
環境要因として、感染症(ウイルス感染、細菌感染)、自己免疫機序、炎症反応などが血管内皮障害を引き起こし、発症や進行に関与する可能性が指摘されていますが、明確な証明はされていません。
症状悪化の誘因として、脱水、過呼吸(小児)、ストレス、過労、感染症、妊娠・出産などが挙げられます。
合併症として、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、1型神経線維腫症、ダウン症候群などの疾患に合併することがあり、これらの疾患では二次性もやもや病(moyamoya syndrome)として区別されます。
注意したい症状
もやもや病を疑う重要な症状として、まず小児における反復する一過性脳虚血発作(TIA)が挙げられます。片側の手足の脱力やしびれ、言葉が出にくい、ろれつが回らないなどの症状が、数分から数十分で自然に改善します。特に、泣いた後、過呼吸の後、熱い食べ物を食べた後に症状が出現することが特徴的です。朝起きたときや午前中に症状が出やすい傾向もあります。
痙攣発作(部分発作、全般発作)も重要な症状であり、特に若年者の初発痙攣では、もやもや病を鑑別に挙げる必要があります。
頭痛は、慢性的な拍動性頭痛として出現することがあり、片頭痛と誤診されることがあります。
成人では、突然の激しい頭痛、意識障害、嘔吐で発症する脳出血が多くみられます。脳室内出血や視床出血が特徴的です。
運動麻痺(片麻痺)、感覚障害、失語症、視野障害などの持続する神経症状は、脳梗塞または脳出血を示唆します。
小児では、学業成績の低下、集中力の低下、記憶力の低下、発達の遅れなども慢性的な脳血流低下を反映している可能性があります。
若年者(40歳以下)の脳卒中(脳梗塞、脳出血)は、もやもや病を積極的に疑うべきサインです。
家族歴がある場合は、軽微な症状でも早期に画像検査(MRA)を行うべきです。
対応の基本
もやもや病への対応は、内科的治療と外科的治療(血行再建術)の組み合わせが基本となります。内科的治療として、抗血小板薬(アスピリン、シロスタゾール)により血小板凝集を抑制し、脳梗塞の予防を図ります。ただし、内科的治療のみでは脳血流改善は得られず、根本的治療にはなりません。
外科的治療(血行再建術)は、頭蓋外から頭蓋内への血流を増加させることで、脳血流を改善し、脳梗塞や脳出血の予防を目的とします。手術方法は、直接バイパス術と間接バイパス術に大別されます。
直接バイパス術(STA-MCAバイパス術)は、頭皮の動脈(浅側頭動脈:STA)を頭蓋内の動脈(中大脳動脈:MCA)に直接吻合する方法であり、術後即座に血流が増加します。成人や脳血流予備能が著しく低下している症例に適応されます。
間接バイパス術(EDAS、EMS、EMSGなど)は、頭皮の血管を有する組織(硬膜、側頭筋、帽状腱膜など)を脳表に接着させ、時間をかけて血管新生を促す方法です。小児では脳表からの血管新生能力が高いため、間接バイパス術が第一選択となります。
EDAS(encephalo-duro-arterio-synangiosis)は、浅側頭動脈を硬膜とともに脳表に接着させます。EMS(encephalo-myo-synangiosis)は側頭筋を、EMSG(encephalo-myo-synangiosis with galeal flap)は側頭筋と帽状腱膜を用います。
手術適応は、脳血流予備能の低下、反復するTIA、脳梗塞の既往、小児では早期の手術が推奨されます。脳出血例では、再出血予防効果があるとされますが、適応は慎重に判断されます。
術後管理として、過灌流症候群の予防のため厳格な血圧管理(収縮期血圧120~140mmHg程度)、十分な水分補給、脱水予防、感染予防が重要です。過灌流症候群が疑われる場合は、降圧薬、抗痙攣薬、脳浮腫治療を行います。
生活指導として、脱水予防(こまめな水分摂取)、過度のストレスや過労の回避、小児では泣かせない工夫、過呼吸を避ける、適度な運動の継続を指導します。
長期フォローアップとして、定期的な画像検査(MRI/MRA)、脳血流検査により、病状の進行、バイパスの開存、反対側の進行を評価します。
リハビリの視点
リハビリテーション専門職にとって、もやもや病患者への介入は、脳卒中後の機能障害に対する回復促進とADL自立、再発予防のための生活指導、小児では発達支援が中心となります。
脳梗塞や脳出血後の運動機能障害に対しては、麻痺側の筋力強化、関節可動域訓練、痙縮管理、バランス訓練、歩行訓練を段階的に実施します。もやもや病患者は若年であることが多く、回復ポテンシャルが高いため、積極的なリハビリテーションにより良好な機能回復が期待できます。
高次脳機能障害(注意障害、記憶障害、遂行機能障害、失語症)に対しては、認知リハビリテーション、言語訓練、代償手段の獲得、環境調整を行います。小児では、学習支援、学校との連携、特別支援教育の活用も重要です。
ADL訓練では、基本動作(起居、移乗、歩行)から応用動作(階段、屋外歩行)、手段的ADL(家事、買い物、公共交通機関利用)まで、段階的に自立度を高めます。
術後早期リハビリテーションとして、血行再建術後は過灌流症候群のリスクがあるため、術後数日間は安静を保ちますが、その後は段階的に離床を進めます。血圧上昇や過度の努力性呼吸を避けるため、運動強度を適切に調整します。
脱水予防は極めて重要であり、運動療法中もこまめな水分摂取を促します。脱水は脳血流をさらに低下させ、脳梗塞リスクを高めます。
小児の発達支援として、認知機能の発達促進、学習支援、社会適応能力の向上を目指します。遊びや学習活動を通じて、注意力、記憶力、問題解決能力を育成します。学校や教育機関と連携し、個別の教育支援計画(IEP)を立案します。
心理的支援として、若年での発症による将来への不安、再発への恐怖、身体障害や認知障害による自己評価の低下に対して、カウンセリング、ピアサポート、家族支援を提供します。
就学・就労支援として、障害の程度に応じた進路選択、職場環境の調整、障害者雇用制度の活用を支援します。軽度の障害であれば通常の就学・就労が可能ですが、高次脳機能障害が残存する場合は配慮が必要です。
家族教育として、疾患の理解、症状悪化の誘因(脱水、過呼吸、ストレス)の回避方法、TIAや脳卒中の初期症状の認識と対応、適切な服薬管理、定期受診の重要性を説明します。
社会資源の活用として、指定難病医療費助成制度、身体障害者手帳(脳卒中後遺症による麻痺や高次脳機能障害)、精神障害者保健福祉手帳(高次脳機能障害)、特別児童扶養手当(小児)などの制度を紹介し、経済的負担の軽減を図ります。
多職種連携として、脳神経外科医、神経内科医、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士と情報共有し、包括的な医療・福祉サービスを提供します。
ひとことで言うと
もやもや病は内頸動脈終末部が進行性に狭窄・閉塞し、特徴的な側副血行路が発達する原因不明の脳血管疾患であり、若年での脳卒中の原因となります。リハビリテーションでは、脳卒中後の機能回復とADL自立、再発予防のための生活管理を支援します。
関連用語
- 脳血管造影
- 側副血行路
- 一過性脳虚血発作(TIA)
- 脳梗塞
- 脳出血
- 血行再建術
- STA-MCAバイパス術
- 脳血流予備能
- 鈴木病期分類
- 指定難病
参考文献
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