夜間痛とは
夜間痛とは、夜間睡眠時や横になった際に生じる疼痛のことであり、痛みにより覚醒したり入眠が困難になったりする症状を指す。医学的には安静時痛の一種であるが、夜間に特異的に増悪するという時間的特徴を持つ。代表的な疾患として肩関節周囲炎(四十肩・五十肩・凍結肩)、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎などの肩関節疾患が挙げられる。肩関節の三角筋周囲や前面に疼痛が生じ、起床後もしばらく持続することが特徴である。患側を下にして寝ると痛みが増強するため、寝返りが困難となり睡眠の質が著しく低下する。夜間痛は炎症の存在を示す重要な臨床所見であり、急性期や炎症期の指標となる。
どこでみるのか
夜間痛は主に肩関節に生じることが多いが、腰部、股関節、膝関節などの他の関節でも出現しうる。肩関節では三角筋周囲、肩峰下、関節前面に疼痛が生じる。問診により夜間の疼痛により覚醒する頻度、痛みの強度、どの体位で痛むか、患側を下にして寝られるか、起床後の症状の持続時間を聴取する。視診では睡眠不足による疲労の表情、触診では患部の熱感や腫脹を確認する。画像検査では単純X線、MRI、超音波検査で炎症や損傷の有無を確認する。整形外科外来、リハビリテーション室で評価が行われ、睡眠日誌により夜間覚醒回数や疼痛強度を経時的に記録することもある。
何をみているのか
夜間痛の評価では、炎症の程度、関節内圧の上昇、血流の変化、体位による圧迫の影響を観察する。炎症期には発痛物質(プロスタグランジン、ブラジキニン、サイトカインなど)が関節内や周囲組織に蓄積し、夜間の血流低下によりこれらの物質が滞留して疼痛が増強する。横になる体位では重力の影響が減少し関節内圧が上昇することで、関節包の内圧受容器が刺激され疼痛が生じる。また、患側を下にした側臥位では患部に体重がかかり組織が圧迫されることで疼痛が増悪する。精神的な要因として、日中は活動により注意が分散しているが、夜間の静寂の中では疼痛に意識が集中しやすく、痛みをより強く感じることも関与する。
臨床でどうみるか
臨床ではまず問診により、夜間痛の有無、覚醒頻度(一晩に何回目が覚めるか)、疼痛の強度(VASやNRSで0〜10点評価)、痛みで眠れない日数、睡眠時間の短縮の程度、どの体位で痛むか(仰臥位、側臥位、患側下の側臥位)を詳細に聴取する。起床後の症状の持続時間や日中の活動への影響も確認する。視診では睡眠不足による疲労感、表情の暗さを観察する。触診では患部の熱感、腫脹、圧痛を確認し、炎症の程度を評価する。関節可動域測定では自動・他動運動時の疼痛と制限の程度を確認する。画像検査では単純X線で石灰沈着の有無、MRIで関節包の炎症、滑液包炎、腱板損傷、骨髄浮腫を評価する。超音波検査では動的に関節内や滑液包の炎症を確認できる。睡眠日誌を記録してもらい、夜間覚醒回数、疼痛強度、睡眠時間を経時的に追跡する。
評価で何をみるか
- 夜間覚醒回数:一晩に何回痛みで目が覚めるかを確認し、炎症の程度を評価する
- 疼痛強度:VASやNRSで夜間痛の強度を0〜10点で評価し、経時的変化を追跡する
- 睡眠時間:実際の睡眠時間と通常の睡眠時間を比較し、睡眠障害の程度を評価する
- 体位による変化:仰臥位、側臥位、患側下側臥位で疼痛がどう変化するかを確認する
- 起床後の症状:起床後に疼痛がどのくらい持続するか、日中の活動への影響を評価する
- 炎症所見:触診で熱感、腫脹、圧痛を確認し、血液検査でCRPや白血球数を測定する
- 安静時痛の有無:動かさなくても痛む安静時痛があるかを確認し、炎症期の判定をする
- 関節可動域:自動・他動運動の制限と疼痛の程度を測定する
- 画像所見:MRIで関節包炎、滑液包炎、腱板損傷、単純X線で石灰沈着を確認する
- 睡眠の質:Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)などで睡眠の質を総合評価する
- 生活への影響:ADL評価や日中の疲労感、集中力低下、気分の変化を確認する
- 薬剤の効果:消炎鎮痛剤や睡眠導入剤の使用状況と効果を評価する
臨床でよく出る問題
- 肩関節周囲炎の炎症期(疼痛期)に強い夜間痛が出現し、睡眠障害を引き起こす
- 腱板断裂により炎症物質が蓄積し、夜間に疼痛が増悪する
- 石灰沈着性腱板炎の急性期に激しい夜間痛が生じ、患側を下にして寝られない
- 慢性的な睡眠不足により日中の疲労感、集中力低下、抑うつ気分が生じる
- 夜間痛を恐れて動かさないでいると、関節拘縮が進行し凍結肩になる
- 消炎鎮痛剤を服用しても夜間痛が軽減せず、睡眠導入剤に依存する
- 夜間痛により寝返りが困難となり、二次的に腰痛や頸部痛を生じる
- 配偶者の睡眠も妨げ、家族関係に影響を及ぼす
- 痛みに対する不安や恐怖が増強し、痛みの悪循環が形成される
- 夜間痛の改善が治療効果の指標となるが、改善に時間を要することが多い
起こりやすい要因
夜間痛が生じる主な要因として、まず炎症の存在が挙げられる。関節包、滑液包、腱、靭帯などの組織に炎症が生じると、発痛物質が産生され蓄積する。夜間は血流が低下するため、これらの物質が滞留し疼痛が増強する。次に関節内圧の上昇がある。横になる体位では重力の影響が減少し、関節内の滑液が均等に分布することで関節内圧が上昇し、内圧受容器が刺激される。体位による圧迫も重要であり、患側を下にした側臥位では患部に体重がかかり組織が圧迫されることで疼痛が増悪する。生理学的な要因として、夜間は副交感神経が優位となり血管が拡張するが、炎症部位では血管透過性が亢進し浮腫が増強する。また、コルチゾールなどの抗炎症ホルモンの分泌が夜間に低下することも炎症の増悪に関与する。精神的要因として、夜間の静寂により疼痛への注意が集中しやすく、不安や恐怖により痛みの閾値が低下することも影響する。
注意したい症状
夜間痛で特に注意すべき症状として、一晩に複数回覚醒し全く眠れない状態が1週間以上続く場合には、強い炎症が存在し積極的な治療介入が必要である。患側を下にして全く寝られない、寝返りができない場合には重度の炎症期と判断される。起床後も数時間にわたり疼痛が持続し、日常生活動作に著しい支障をきたす場合には、慢性的な炎症や組織損傷が進行している可能性がある。安静時にもズキズキと拍動性の痛みがある場合には、急性炎症や感染の可能性を考慮する。夜間痛に加えて発熱や全身倦怠感がある場合には、感染性関節炎や全身性炎症疾患を疑う。消炎鎮痛剤を服用しても全く効果がない場合には、石灰沈着性腱板炎や感染など特殊な病態の可能性がある。睡眠障害が長期化し抑うつ症状や不安障害を併発する場合には、精神科的な介入も必要となる。
対応の基本
夜間痛への基本対応は、まず炎症の軽減と疼痛管理である。消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服により発痛物質の産生を抑制し、就寝前の服用で夜間の疼痛軽減を図る。急性期には患部のアイシングで炎症を抑制するが、慢性期には温熱療法で血流を改善し発痛物質の除去を促進する。睡眠環境の調整として、枕の高さや位置を工夫し患側に負担がかからない体位をとる。患側を上にした側臥位で、患側の腕の下に枕を入れて支持することで疼痛が軽減することがある。肩専用の夜間痛サポーターを使用し、肩関節を軽度外転位に保持することで関節内圧を軽減する方法もある。薬物療法として、必要に応じて睡眠導入剤を短期間使用する。炎症が強い場合には関節内ステロイド注射を検討する。リハビリテーションでは炎症期には無理な可動域訓練を避け、疼痛が軽減してから段階的に運動療法を開始する。日中の活動では患部に過度な負担をかけないよう動作指導を行う。
リハビリの視点
リハビリテーションでは夜間痛の有無と程度により、介入の強度と内容を調整する。理学療法士は夜間痛がある炎症期には、関節包や滑液包への機械的刺激を最小限にとどめ、無理な可動域訓練やストレッチングを避ける。この時期には疼痛緩和を目的とした物理療法(アイシング、電気刺激療法、超音波療法)を中心に実施する。また、体位指導により夜間の疼痛を軽減する方法を指導する。夜間痛が軽減してきた段階で、徐々に関節可動域訓練を開始するが、疼痛の増悪に注意しながら進める。作業療法士は日常生活動作における患部への負担を評価し、動作方法の工夫や環境調整により炎症の悪化を防ぐ。睡眠環境の調整として、寝具の選択や枕の配置を助言する。心理的サポートとして、夜間痛は炎症が改善すれば必ず軽減すること、治癒過程の一時期であることを説明し、不安を軽減する。睡眠日誌をつけてもらい、夜間痛の改善を可視化することで治療の動機づけを高める。炎症期を過ぎても動かさないでいると拘縮が進行するため、適切な時期に運動療法へ移行するタイミングを見極めることが重要である。
ひとことで言うと
夜間痛とは、夜間睡眠時に生じる疼痛で覚醒や入眠困難を引き起こす症状であり、炎症の存在を示す重要な臨床所見である。
関連用語
- 安静時痛
- 炎症期
- 肩関節周囲炎
- 四十肩
- 五十肩
- 凍結肩
- 腱板断裂
- 石灰沈着性腱板炎
- 関節内圧
- 発痛物質
- 滑液包炎
- 関節包炎
- 睡眠障害
- 夜間覚醒
- 側臥位
- 体位管理
- 消炎鎮痛剤
- NSAIDs
- 疼痛管理
- VAS
参考文献
痛みで目が覚めてしまう、痛い方を下にすると眠れない(夜間痛) - 芦屋整形外科スポーツクリニック
夜間痛を有する肩関節疾患保存治療例の特徴と治療効果 - 川崎医療福祉大学
腱板断裂の夜間痛はなぜ起こる? - Sincell Clinic
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- 石灰沈着性腱板炎の急性期対応
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- 夜間痛を軽減する体位管理
- 凍結肩の病期分類と治療戦略
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