関節可動域訓練とは
関節可動域訓練(Range of Motion Exercise:ROM訓練)とは、関節の可動域を維持・改善し、関節拘縮や変形を予防するために行う運動療法のことです。自分で動かす自動運動、わずかな介助で行う自動介助運動、他人が動かす他動運動があり、対象者の状態と目的に応じて使い分けます。動作獲得に必要な可動域の確保と維持を目的とし、入院から在宅・介護まで幅広い場面で実施される基礎的なリハビリテーションです。
どこでみるのか
急性期病棟・回復期リハビリテーション病棟、整形外科、介護施設、訪問リハビリテーション・訪問看護で、長期臥床者・脳卒中後の片麻痺者・骨折後の関節固定者を中心に実施されます。患者訴えは「動かすと痛い」「手や足が固まってきた」「自分で動かせない」などで、動かせない間に拘縮が進むことを予防する目的で導入されます。
何をみているのか
着眼点は、①可動域の現状(関節可動域測定による定量化)、②疼痛の有無と部位、③拘縮の程度と種類、④皮膚・浮腫の状態、⑤良肢位・体位の管理状況、⑥ADLに必要な可動域との差です。訓練は「どの関節を、どの方向に、どこまで」確保する必要があるかという生活目標から逆算して設計する視点が重要です。
臨床でどうみるか
まず日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年4月改訂)に基づいて可動域を測定し、原則として他動運動による測定値を記録します。次に目標可動域を設定し、自動運動・自動介助運動・他動運動を選択して実施します。他動運動は疼痛や麻痺のため自分で動かせない場合の適応で、疼痛が増強する場合には他動運動で可動性を維持します。実施は痛みのない範囲でゆっくり行い、効果と状態を定期的に再評価します。
評価で何をみるか
関節可動域訓練の評価では、拘縮の背景と訓練条件を捉える視点が重要です。
- 関節可動域測定 - 測定法の基準に沿って各関節の角度を定量化する
- 拘縮の程度 - 脳卒中患者の約半数が発症6か月以内に拘縮を起こす
- 疼痛の管理 - 痛みのない範囲での実施が訓練継続の前提となる
- 皮膚・浮腫 - 循環障害・浮腫が拘縮の悪化因子となる
- 良肢位・体位変換 - 臥床中の肢位管理が可動域維持を支える
- ADLとの関連 - 必要な動作に応じた可動域を設定する
可動域の低下は疼痛・浮腫・体位管理の問題と相互に影響し合います。測定値だけでなく、生活動作ができるかという機能の側面からも評価し、訓練の優先順位を決めることが実践の要諦です。
臨床でよく出る問題
関節可動域訓練の実施には、現場特有の課題があります。
- 疼痛による拒否 - 痛みが訓練の継続を妨げる
- けい縮による実施困難 - 筋緊張が高く関節が動かしにくい
- 可動域の維持困難 - 実施頻度が低いと拘縮が進行する
- 二次障害の発生 - 浮腫・皮膚損傷・肩関節亜脱臼
- 介助者への負担 - 家族・介護者の技術と疲労
- 訓練効果の見えにくさ - 短期間では変化が現れにくい
これらは相互に影響し合うため、疼痛管理と頻度の確保を最優先に、介助者教育や体位管理を含めた多面的な対処が必要です。一度失った可動域の回復には長期間を要するため、「予防」の視点を貫くことが最重要です。
起こりやすい要因
関節拘縮・可動域低下の背景要因は以下の通りです。
- 長期臥床・不動 - 動かさない関節は組織の短縮が進行する
- 麻痺・けい縮 - 脳卒中後の片麻痺では拘縮の主要な原因となる
- 疼痛・炎症 - 痛みのため動かす機会が減る
- 浮腫・循環障害 - 組織の腫れが可動域を狭める
- 固定・ギプス - 関節固定期間中に拘縮が進む
- 加齢・基礎疾患 - 組織の柔軟性低下が背景にある
拘縮の予防には発症早期からの関節運動量の確保が重要で、脳卒中後の研究では発症2週で1日130分、4週で350分程度の関節運動が必要とされています。可逆的な要因(運動量・体位・浮腫)から早めに介入することが拘縮予防の近道です。
注意したい症状
訓練の実施中・後に注意すべきサインがあります。
- 訓練中の疼痛増強 - 無理な可動域拡大は組織損傷につながる
- 骨折のリスク - 骨粗鬆症・長期臥床者では軽微な力でも骨折し得る
- 肩関節の亜脱臼・疼痛 - 片麻痺の上肢では特に注意する
- 皮膚・軟部組織の損傷 - 強い力での他動運動を避ける
- けい縮の増強 - 急速な伸張刺激は筋緊張を高め得る
訓練は「痛みのない範囲で、ゆっくり、反復して」行うことが安全の原則です。骨粗鬆症や麻痺のある患者では手技の強度と肢位を調整し、異常があれば中止して状態を確認する体制を整えます。
対応の基本
関節可動域訓練の実施は、予防と継続を軸に進めます。
- 早期からの開始 - 発症・手術直後から拘縮予防を始める
- 適切な手技の選択 - 自動・自動介助・他動を状態に応じて使い分ける
- 疼痛のない範囲での実施 - 痛みを基準に強度・可動域を調整する
- 持続伸張・装具の活用 - 徒手以外に装具やシリアルキャスティングを併用する
- 良肢位・体位変換の管理 - 臥床中の姿勢で可動域の維持を支える
- 家族・介護者への指導 - 在宅で継続できる方法を教育する
関節可動域は一日で失われ、回復には長期間を要します。訓練を特別な時間だけでなく日常生活の中に関数を組み込み、チームと家族で継続の仕組みを整えることが最重要です。
ひとことで言うと
関節可動域訓練とは、関節の可動域を維持・改善し、拘縮や変形を予防するために自動・自動介助・他動の運動を使い分ける基礎的な運動療法です。痛みのない範囲での早期開始と継続が原則で、良肢位・持続伸張・装具・家族指導と組み合わせて実施します。
関連用語
参考文献・出典
- 関節可動域訓練|動画でわかる看護技術(看護roo!)
- 理学療法(MSDマニュアル 家庭版)
- 最新のリハビリテーション - 痙縮のマネジメント(J-STAGE)
- 関節可動域表示ならびに測定法(日本リハビリテーション医学会)
- 【2026年版】拘縮とは|原因・評価・リハビリのエビデンス(STROKE LAB)
- 脳卒中片麻痺患者の下肢関節における拘縮の予防および改善(愛知県理学療法学会)
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