癒着性関節包炎とは
癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)とは、肩関節を包む関節包に炎症・肥厚・線維化が生じ、疼痛と可動域制限(拘縮)をきたす疾患で、凍結肩・五十肩(肩関節周囲炎)に対応する病理解剖学的な名称です。中年以降に多く発症し、疼痛期・拘縮期・回復期の3期を経て1〜3年で回復に向かいます。関節鏡検査の進展により重症例でも関節内の癒着所見に乏しい症例が多いことが明らかになり、現在では関節包の拘縮と炎症性変化が病態の中心と考えられています。糖尿病を背景とする症例は治療に抵抗性を示すなど、基礎疾患との関連も臨床上重要です。
どこでみるのか
整形外科・リハビリテーション科・内科・糖尿病内科の連携の中で遭遇します。臨床現場では、①肩の痛みと動きにくさを主訴とする外来、②糖尿病・甲状腺疾患患者の肩関節障害、③骨折後・術後・脳卒中後の不動に伴う拘縮、④保存治療に抵抗する可動域制限の検討、⑤注射や拡張療法の適応判断などの場面で癒着性関節包炎が問題となります。患者訴えは「腕が後ろに回らない」「夜間痛で眠れない」「洗髪や着替えができない」などで、疼痛期と拘縮期では痛みと制限の主従が入れ替わるため、病期を見極めた上で患者訴えを聴取する視点が求められます。
何をみているのか
着眼点は、①関節包拘縮の程度(他動可動域の全方向制限)、②特徴的な制限パターン(外旋・内旋・外転制限)、③疼痛の病期による変化(安静時痛→動作時痛)、④関節包の肥厚と滑膜炎の有無、⑤副運動(滑り運動)の減少、⑥肩甲帯の代償動作、⑦基礎疾患(糖尿病・甲状腺疾患)、⑧画像所見(MRIでの関節包肥厚)です。癒着性関節包炎は腱板損傷と異なり自動・他動ともに同程度に制限され、健側との比較や既往歴(対側発症)も参考になります。痛みと拘縮のどちらが主体かを病期ごとに整理する視点が最重要です。
臨床でどうみるか
具体的には、疼痛、自動・他動の肩関節可動域、肩甲上腕関節の副運動を評価します。診断は複数方向の他動運動制限が確認できることで成り立ち、画像ではMRIで関節包や烏口上腕靭帯の肥厚が認められます。治療は病期に応じて選択し、疼痛期にはステロイドの関節内注射・消炎鎮痛薬・愛護的な理学療法、拘縮期には関節包内注水療法(ハイドロダイレーション)や関節モビライゼーション、抵抗性の強い症例では麻酔下マニピュレーションや関節鏡的授動術が検討されます。糖尿病を合併する症例では血糖管理と並行した治療計画が不可欠で、病期を誤った対応は回復を遅らせるため注意が必要です。
評価で何をみるか
癒着性関節包炎の評価では、拘縮・疼痛・病期を確認します。
- 他動可動域 - 全方向制限の程度
- 外旋・内旋角度 - 関節包拘縮の指標
- 疼痛の性質 - 安静時痛・夜間痛の有無
- 副運動 - 肩甲上腕関節の滑り運動
- MRI所見 - 関節包・靭帯の肥厚
- 機能評価 - 更衣・洗顔・後頭部への手
- 基礎疾患 - 糖尿病・甲状腺機能の確認
これらは相互に関連します。他動可動域と副運動から拘縮の主体を判断し、疼痛の性質と基礎疾患を組み合わせて病期と治療方針を決めることが、評価を正確にする核心です。
臨床でよく出る問題
癒着性関節包炎に関連して臨床で生じやすい問題は以下の通りです。
- 夜間痛・睡眠障害 - 疼痛期の主要な問題
- 可動域制限の残存 - 拘縮期の外旋・内旋制限
- ADL障害 - 更衣・洗顔・排泄動作の困難
- 治療抵抗性の経過 - 糖尿病合併例での遷延
- 対側の発症 - 一側発症後の他側リスク
- 訓練時の疼痛増悪 - 過度な牽伸による悪化
これらは相互に影響します。夜間痛が睡眠を損ない活動を低下させ、動かない肩がさらに拘縮する悪循環が生じます。疼痛期に強い牽伸をかけて炎症を増悪させたり、拘縮期に安静を続けて回復を遅らせたりしないよう、病期判断を軸に問題を整理することが核心です。
起こりやすい要因
癒着性関節包炎をきたしやすい背景には以下があります。
- 加齢 - 40〜50代を中心とした発症
- 糖尿病 - 高血糖による関節包の変性
- 甲状腺疾患 - 代謝異常との関連
- 長期の不動化 - 骨折後・術後の安静
- 肩への過負荷 - 繰り返す動作・姿勢
- 自己免疫的機序 - 炎症性変化の関与
これらは重複して発症リスクを高めます。糖尿病患者では発症が若年化し、可動域制限が強く残りやすいとされます。不動化の期間と基礎疾患の有無を組み合わせて捉え、発症前に予防的な可動域維持訓練を行う視点が、病態判断と介入の鍵です。
注意したい症状
癒着性関節包炎を示唆する見逃せないサインがあります。
- 他動・自動ともに制限 - 腱板損傷との鑑別点
- 外旋制限の進行 - 関節包拘縮の徴候
- 夜間痛の持続 - 炎症期の指標
- 発熱・全身状態の悪化 - 感染性関節炎の除外
- 麻痺・感覚障害 - 頚椎疾患の鑑別
- 急激な疼痛増悪 - 石灰化性腱板炎の確認
これらはさらに精査と対応の見直しに直結します。すべての肩痛を癒着性関節包炎と決めつけると腱板断裂や頚椎疾患、感染を見落とす恐れがあります。痛みの急変や全身症状の出現では鑑別を再考し、画像と所見を組み合わせて判断することが、安全確保の基本です。
対応の基本
癒着性関節包炎への対応は、病期・治療・訓練の三層で組みます。
- 病期の判定 - 疼痛期・拘縮期・回復期の鑑別
- 疼痛管理 - 注射・薬剤・物理療法
- 関節内注射 - ステロイドの的確な使用
- 拡張療法 - 関節包内注水の検討
- 可動域訓練 - 段階的な伸張と牽伸
- 基礎疾患の管理 - 血糖コントロールとの並行
癒着性関節包炎は自然回復が見込める一方、病期に合わない介入は回復を遅らせます。疼痛期には愛護的な対応で拘縮の進行を抑え、拘縮期以降は関節包への持続的な伸張刺激を加え、基礎疾患の管理と併せて進めることが、最も重要な実践です。
ひとことで言うと
癒着性関節包炎とは、肩関節包の炎症と拘縮により疼痛と可動域制限をきたす疾患で、凍結肩・五十肩に対応する病態の名称です。病期を見極め、時期に合った治療と訓練を進めることが基本です。
関連用語
- 関節包
- 凍結肩
- 拘縮
- 可動域制限
- ステロイド注射
- 拡張療法
- 滑膜炎
参考文献・出典
- 肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン(理学療法掲載論文)
- 五十肩(肩関節周囲炎)(日本整形外科学会)
- 五十肩(ごじゅうかた)(霞ヶ浦医療センター)
- 五十肩(肩関節周囲炎)(大橋整形外科)
- 凍結肩(肩関節周囲炎)(日経メディカル)
- 肩関節拘縮(三国整形外科)
関連記事
- 凍結肩とは
- 腱板損傷とは
- 可動域訓練とは
- 伸張訓練とは
- 拘縮とは
- 徒手療法とは
用語集へ戻る
『ゆ』用語集へ戻る