肩関節痛とは
肩関節痛(shoulder pain)とは、肩関節とその周囲に生じる疼痛の総称で、腱板損傷・肩関節周囲炎・石灰沈着性腱板炎・肩鎖関節障害・インピンジメント症候群など多様な原因疾患によって起こります。肩の痛みには関節そのものの障害のほかに、頚椎疾患から放散する痛みや、心疾患・胆のう疾患などの内臓由来の関連痛も含まれるため、原因の鑑別が臨床上最重要です。痛みは安静時・夜間・動作時など性質が異なり、可動域制限の有無とも組み合わせて評価されます。肩関節は可動域が広く機能に多くの組織が関与するため、痛みの原因を整理した対応が治療とリハビリテーションの要となります。
どこでみるのか
整形外科・リハビリテーション科・内科・循環器内科など多くの診療科で遭遇します。臨床現場では、①肩の痛み・挙上困難を主訴とする外来、②脳卒中後や骨折後の安静に伴う肩痛、③糖尿病・透析患者の肩関節障害、④運動時や労働時の痛みを主訴とする作業管理、⑤夜間痛を主訴とする受診などの場面で肩関節痛が問題となります。患者訴えは「腕が上がらない」「夜中に痛くて目が覚める」「着替えができない」「背中が掻けない」などで、痛みの出方(安静時か動作時か)と可動域制限の有無から原因を絞り込む視点が求められます。
何をみているのか
着眼点は、①痛みの性質(安静時痛・夜間痛・動作時痛)、②可動域制限の有無(自動・他動の比較)、③圧痛の部位(大結節・小結節・肩鎖関節・上腕二頭筋長頭腱溝)、④インピンジメント所見(痛み弧・Neerテスト・Hawkinsテスト)、⑤腱板機能(Jobeテスト・外旋筋力)、⑥頚椎由来の放散痛の有無、⑦内臓由来の関連痛の有無、⑧姿勢と肩甲帯の動きです。腱板損傷は自動可動域のみ制限され他動では保たれる点が特徴で、五十肩は自動・他動ともに制限されます。痛みと制限の関係を組み合わせて原因を整理することが最重要です。
臨床でどうみるか
具体的には、問診で痛みの出方を確認し、視診・触診で圧痛部位を特定し、可動域測定と誘発テストを行います。鑑別のポイントは、石灰沈着性腱板炎は誘因なく突然の激痛で始まりX線で石灰沈着が明瞭に写ること、腱板損傷は痛みを伴いながら自動挙上のみ制限されること、五十肩は徐々に痛みと拘縮が進むことです。超音波検査やMRIで腱板の断裂・炎症を確認し、頚椎の可動域と放散痛の関係も評価します。治療は原因に応じ、急性期にはNSAIDsや注射による対症療法、その後には物理療法と運動療法、腱板断裂で断裂が大きい場合には手術も検討されます。
評価で何をみるか
肩関節痛の評価では、疼痛・機能・原因を確認します。
- 疼痛の性質 - 安静時・夜間・動作時の程度
- 可動域 - 自動と他動の制限の差
- 圧痛の部位 - 大結節・肩鎖関節・腱溝
- インピンジメントテスト - Neer・Hawkinsテスト
- 腱板機能 - Jobeテスト・外旋筋力
- 頚椎スクリーニング - 放散痛の有無
- ADL評価 - 更衣・洗顔・後頭部への手
これらは相互に関連します。痛みの性質と可動域の制限パターンを組み合わせて原因疾患を絞り込み、頚椎と関連痛の確認で鑑別を確実にすることが、評価を正確にする核心です。
臨床でよく出る問題
肩関節痛に関連して臨床で生じやすい問題は以下の通りです。
- 夜間痛による睡眠障害 - 炎症期の主要な問題
- ADL障害 - 更衣・洗顔・排泄動作の困難
- 不活動による拘縮 - 痛み回避による悪循環
- 肩甲帯の代償動作 - 痛みに伴う姿勢の変化
- 鑑別の誤り - 心疾患・頚椎疾患の見落とし
- 訓練時の疼痛増悪 - 不適切な負荷の選択
これらは相互に影響します。夜間痛が睡眠を損ない活動を低下させ、動かない肩がさらに拘縮する悪循環が生じます。痛みの原因を確定せずに一律の訓練を行うと症状が増悪するため、鑑別を軸に問題を整理することが核心です。
起こりやすい要因
肩関節痛をきたしやすい背景には以下があります。
- 加齢変性 - 腱板の退行変化
- 過使用 - 繰り返す挙上・投球動作
- 外傷 - 転倒・捻り・脱臼の既往
- 糖尿病・透析 - 腱組織の代謝異常
- 不動化 - 骨折後・術後・麻痺側の安静
- 姿勢 - 円背・頭部前方位の肩甲帯負荷
これらは重複して発症リスクを高めます。高齢者では変性に不動化が加わり五十肩や拘縮が生じやすく、労働・スポーツでは過使用による腱板損傷が多いとされます。年齢・活動歴・基礎疾患を組み合わせて捉えることが、病態判断の鍵です。
注意したい症状
肩関節痛を示唆する見逃せないサインがあります。
- 安静時・夜間痛の持続 - 炎症・腫瘍の指標
- 突然の激痛 - 石灰沈着性腱板炎の発症
- 左肩・腕の痛みと冷や汗 - 心疾患の関連痛
- 頚部運動で増悪するしびれ - 頚椎由来の放散痛
- 急な挙上不能 - 腱板完全断裂の確認
- 発熱・全身症状の合併 - 感染性関節炎の除外
これらはさらに精査と早期対応に直結します。左肩の痛みは心筋梗塞の関連痛であることがあり、冷や汗・胸の圧迫感を伴う場合は循環器への確認が最優先です。痛みの急変や全身所見から緊急度を判断することが、安全確保の基本です。
対応の基本
肩関節痛への対応は、評価・治療・訓練の三層で組みます。
- 原因の鑑別 - 関節・頚椎・内臓の切り分け
- 疼痛管理 - 薬剤・物理療法・注射
- 可動域維持 - 痛みに合わせた訓練調整
- 肩甲帯の整復 - 姿勢・筋緊張の調整
- 筋力訓練 - 腱板・肩甲帯筋の強化
- ADL指導 - 動作の工夫と負荷軽減
肩関節痛は原因疾患によって対応が大きく異なるため、鑑別を確実に行い、痛みの性質に合わせて治療と訓練を選択することが最重要です。痛みを恐れて動かさない期間を最小限にし、段階的に機能回復を進めることが、最も重要な実践です。
ひとことで言うと
肩関節痛とは、腱板損傷や五十肩など多様な原因で起こる肩の疼痛です。痛みの性質と可動域所見から原因を鑑別し、心疾患や頚椎由来の痛みを見逃さず対応することが基本です。
関連用語
参考文献・出典
- 肩の痛みの原因は?(国立長寿医療研究センター)
- 五十肩(肩関節周囲炎)(日本整形外科学会)
- 肩関節の痛みと運動障害(臨床支援センター)
- 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法(総合リハビリテーション掲載論文)
- 肩関節の評価(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
- 石灰沈着性腱板炎(霞ヶ浦医療センター)
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