嫌気性代謝閾値とは
嫌気性代謝閾値(Anaerobic Threshold:AT)とは、運動強度を徐々に上げたとき、エネルギー供給が有酸素性代謝だけでは賄えなくなり、無酸素性代謝が加わり始める時点の運動強度(酸素摂取量)です。呼気ガス分析で非観血的に測定でき、CPXで得られる指標として心疾患リハビリテーションの運動処方や持久力評価に広く用いられます。単位はml/minで、peak VO2に対する割合(%AT)で表現されることもあります。
どこでみるのか
CPXを実施する循環器内科・呼吸器内科の病棟・外来、心臓リハビリテーション、呼吸リハビリテーションで必ず登場します。運動処方の強度決定、治療効果判定、術前評価などで測定されます。患者訴えは「少し動くと息が切れる」「疲れがとれない」などで、安全に長時間続けられる運動強度の目安を決める際にATが基準となります。
何をみているのか
ATは血中乳酸が上昇し始める点の間接指標です。ATを超えると乳酸が蓄積し、息切れや下肢の重さを感じて運動の継続が難しくなります。評価の着眼点は、①AT時のVO2、②peak VO2に対する割合(%AT)、③AT時の心拍数・負荷量、④自覚的強度(Borgスケール)との対応です。ATは上限値であるpeak VO2と異なり、長時間継続できる運動強度を直接反映するため、運動処方に実用的とされています。
臨床でどうみるか
CPXで自転車エルゴメータやトレッドミルによるランプ負荷を行い、呼気ガス分析で求めます。代表的な決定方法には、CO2排出量の増加速度が急に変わる点をみるV-slope法、換気当量(VE/VO2)が最小値から上昇に転じる点をみる換気当量法などがあり、複数の方法で整合性を確認して判定します。呼気ガス分析装置がない場合は、一般にBorg12~13がATに相当すると言われ、自覚的強度や心拍数が代用に使われます。
評価で何をみるか
ATでは、1つの数値ではなく複数指標の組み合わせで判定します。
- AT時のVO2 - ml/minで表し、全身持久力の指標として経時比較する
- %AT(peak VO2に対する割合) - 健常人では40~50%VO2max前後とされる
- V-slope法 - CO2排出量が急増する折れ曲がり点で判定する
- 換気当量法 - VE/VO2が最小値から増加に転じる点で判定する
- AT時の心拍数・負荷量 - 運動処方の強度に換算して用いる
- Borgスケールの対応 - 一般にBorg12~13がAT相当とされる
判定は複数の方法を併用して整合をとります。測定者や方法で値がずれ得るため、経時評価では同じ方法・条件で比較することが結果の信頼性を左右します。
臨床でよく出る問題
ATの測定・運用には現場特有の課題があります。
- AT判定不能 - 患者がATに達する前に運動を終了した場合
- 判定のばらつき - 方法・測定者によって値が異なる
- 心拍数処方のずれ - β遮断薬や不整脈で心拍応答が当てにならない
- 用語の混同 - 乳酸性閾値(LT)や換気性閾値(VT)との関係
- 強度の過大評価 - 「きつい」感覚だけで設定するとATを超える
- 同義語の多さ - AT・無酸素性作業閾値・VTで指す内容が微妙に異なる
ATに達しない運動終了では判定できないため、中止基準と患者への指示が重要です。心拍数が不確実な不整脈患者では、AT時の運動強度(負荷量)そのものを処方に用いる対応が推奨されます。
起こりやすい要因
ATの低下は、酸素の運搬と利用のどこにでも起こり得ます。
- 心疾患 - 心不全、心臓術後など心拍出量の制限
- 呼吸器疾患 - COPD、間質性肺炎などガス交換障害
- 筋・代謝の低下 - サルコペニア、廃用、ミトコンドリア機能低下
- 貧血・動脈血酸素低下 - 酸素運搬能力の低下
- 運動不足・高齢 - 有酸素能力の自然低下
- 薬剤 - β遮断薬による心拍反応の変化
高齢者では複数の要因が重なり、疾患治療だけではATは十分改善しません。持久系トレーニングで筋の酸素利用能力は向上するため、心肺側と筋側の両面から介入することが改善の近道です。
注意したい症状
ATを超えた強度では、運動の安全性に関わる変化が出現します。
- 息切れの急増・下肢の重さ - 乳酸蓄積による自覚症状で継続が難しくなる
- 胸痛・虚血の徴候 - 強度過大のサインで直ちに中止する
- SpO2低下 - 呼吸器疾患では負荷で悪化しやすい
- 血圧の異常反応 - 過大負荷の兆候として観察する
- 遷延する疲労 - 回復が遅い場合は処方強度を見直す
AT処方は心臓への安全な有酸素運動強度として設計されており、ATレベルを下回る強度なら長時間の持続が可能です。症状の出方と測定値を突き合わせ、処方強度が妥当かを随時確認します。
対応の基本
ATの結果は、運動処方の強度設定と再評価に活用します。
- AT処方 - ATレベルまたはそれを下回る強度を運動強度とする
- 処方への換算 - AT時の負荷量・心拍数・Borgを実施強度に落とし込む
- 経時的な再評価 - 治療効果判定として定期的にCPXを繰り返す
- 心拍数に頼らない管理 - 不整脈・β遮断薬例では負荷量で管理する
- チームでの共有 - AT値と処方強度を記録し医療職間で揃える
- 患者教育 - Borgスケールで適切な自覚的強度を伝える
AT処方の利点は、有酸素運動の範囲内で安全に長時間の持続運動ができる点にあります。1回のCPXで終わらせず、処方・実施・再評価のサイクルに組み込むことが最重要です。
ひとことで言うと
嫌気性代謝閾値とは、運動強度を上げた際に無酸素性代謝が加わり始める時点の酸素摂取量で、安全に長時間続けられる運動強度の目安です。CPXで測定し、心臓リハビリテーションの運動処方や効果判定の基準として用いられます。
関連用語
- 酸素摂取量
- 最大酸素摂取量
- 心肺運動負荷試験
- 乳酸性閾値
- 換気性閾値
- 有酸素性運動
- Borgスケール
参考文献・出典
- AT〈anaerobic threshold、嫌気性代謝閾値〉(東映医療)
- 運動の基礎知識 AT(嫌気性代謝閾値)とは
- 無酸素性閾値・嫌気性代謝閾値(長寿科学振興財団)
- CPXの実際(4) 最大酸素摂取量と嫌気性代謝閾値(水戸済生会総合病院)
- CPX検査について(フクダ電子)
- 心臓リハビリテーションにおけるAT処方(理学療法学・J-STAGE)
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