右室梗塞

右室梗塞とは

右室梗塞(right ventricular infarction、RVI) は、右冠動脈の閉塞により右心室心筋が壊死に陥る病態です。急性下壁心筋梗塞の約30〜50%に合併し、単独発症は稀です。右室は左室に比べて薄く酸素需要が少ないため、側副血行路が発達しやすく梗塞範囲は限定的なことが多いですが、広範囲右室梗塞では右心不全をきたし血行動態が著しく不安定となります。低血圧、頸静脈怒張、肺野清明というKussmaul三徴が特徴的で、前負荷依存性が高いため輸液反応性が良好です。右側胸部誘導心電図(V4R)でのST上昇が診断の鍵となります。

どこでみるのか

右室梗塞は救急外来、循環器内科病棟、冠疾患集中治療室(CCU)で診断・治療されます。急性下壁心筋梗塞で入院した患者の経過観察中に発見されることが典型的です。患者は「胸が苦しい」「息が苦しい」「冷や汗が出る」といった一般的な心筋梗塞症状に加え、「立ち上がるとふらつく」「血圧が下がる」「首の血管が浮き出ている」という右心不全特有の訴えをします。下壁梗塞の心電図所見(II、III、aVF誘導でのST上昇)を認めた時点で、必ず右側胸部誘導を追加して右室梗塞の合併を評価する必要があります。

何をみているのか

右室梗塞の評価では、右室の梗塞範囲、右心不全の程度、血行動態の安定性、前負荷依存性を把握します。右側胸部誘導心電図(特にV4R)でのST上昇≧1mmが診断基準です。心エコー検査で右室壁運動低下、右室拡大、下大静脈拡張(≧21mm、呼吸性変動<50%)を確認します。右心カテーテル検査では右房圧上昇(≧10mmHg)、右室拡張末期圧上昇、肺動脈楔入圧正常または軽度上昇という血行動態パターンを認めます。心筋トロポニン、CK-MBの上昇度、冠動脈造影による右冠動脈閉塞部位の確認も重要です。

臨床でどうみるか

診察では、まず胸痛の性質、持続時間、放散痛を確認します。バイタルサインで低血圧(収縮期<90mmHg)、頻脈(>100回/分)、呼吸数増加を認めます。身体所見でKussmaul三徴(低血圧、頸静脈怒張、肺野清明)を確認します。頸静脈怒張は仰臥位で明瞭となり、吸気時に増強するKussmaul徴候陽性のこともあります。聴診では肺野はラ音を聴取せず清明で、心尖部でIII音、左胸骨縁下部で三尖弁逆流性雑音(汎収縮期雑音)を聴取することがあります。12誘導心電図でII、III、aVF誘導のST上昇を確認したら、必ず右側胸部誘導(V3R〜V6R)を記録します。V4R誘導でのST上昇≧1mmが右室梗塞の感度・特異度ともに高い診断所見です。血液検査でトロポニンI/T、CK-MB上昇を確認し、BNP・NT-proBNP上昇は右室負荷を反映します。心エコー検査で右室自由壁の無収縮または低収縮、右室拡大(右室径/左室径>0.6)、下大静脈拡張を観察します。冠動脈造影では近位右冠動脈(acute marginal branch分岐前)の閉塞が典型的です。

評価で何をみるか

右室梗塞の評価では診断確定と重症度判定のための指標を用います。

  • V4R誘導のST上昇 - ≧1mmで右室梗塞の感度88%、特異度78%、診断の第一選択
  • 右房圧 - 右心カテーテルで≧10mmHgまたは≧肺動脈楔入圧の80%で右室梗塞を示唆
  • 右室壁運動 - 心エコーで右室自由壁の無収縮〜低収縮、右室拡大の有無
  • 下大静脈径 - ≧21mmかつ呼吸性変動<50%で右房圧上昇を反映
  • 心係数 - <2.2L/分/m²で心原性ショック、輸液反応性の評価が重要
  • トロポニン値 - 右室梗塞範囲と相関、ピーク値高値は予後不良
  • BNP/NT-proBNP - 右室負荷のバイオマーカー、高値は右室機能不全を示唆
  • 三尖弁逆流の程度 - 心エコーで中等度以上の逆流は血行動態悪化因子

これらの指標を組み合わせることで、右室梗塞の診断確度、血行動態不安定性の予測、輸液療法の効果判定、予後予測が可能となります。V4R誘導ST上昇は発症後12〜24時間で消失することがあり、早期の心電図記録が重要です。

臨床でよく出る問題

右室梗塞患者では特有の血行動態管理上の問題が生じます。

  • 低血圧の遷延 - 右室収縮不全により左室への前負荷が減少、心拍出量低下で収縮期血圧<90mmHg
  • 硝酸薬・利尿薬による血圧低下 - 前負荷減少で右室充満圧が低下、急激な血圧低下をきたす
  • 房室ブロック - 下壁梗塞の合併症、房室結節動脈も右冠動脈から分岐、完全房室ブロックで一時ペーシング必要
  • 心房細動の出現 - 右房梗塞合併で心房細動発症、心房収縮消失により心拍出量さらに低下
  • 三尖弁逆流の増悪 - 右室拡大により三尖弁輪拡大、乳頭筋虚血で逆流増強
  • 心原性ショック - 広範囲右室梗塞+左室下壁梗塞の組合せで致死率30〜50%
  • 心室中隔穿孔 - 下壁梗塞に合併、急激な血行動態悪化で緊急手術適応
  • 輸液過剰による肺うっ血 - 左室機能も低下している場合、過剰輸液で左心不全増悪

これらの問題は相互に関連し血行動態を複雑化します。右室梗塞では前負荷維持が最優先であり、利尿薬・硝酸薬は原則禁忌です。一方で左室梗塞合併例では輸液過剰にも注意が必要で、中心静脈圧モニタリング下での慎重な管理が求められます。

起こりやすい要因

右室梗塞の発症には冠動脈の解剖学的要因と血栓形成リスクが関与します。

  • 近位右冠動脈閉塞 - acute marginal branch分岐前の閉塞で右室自由壁全体が虚血、最も高リスク
  • 右冠動脈優位型(右室枝優位) - 85%の症例、右冠動脈から後下行枝が分岐、下壁+右室梗塞を合併
  • 側副血行路の不良 - 右冠動脈に慢性狭窄病変がない場合、側副血行路未発達で梗塞範囲拡大
  • 従来の心筋梗塞リスク因子 - 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、家族歴が動脈硬化を促進
  • 血栓性素因 - 凝固亢進状態(悪性腫瘍、多血症、脱水)でプラーク破綻後の血栓形成
  • 高齢 - 70歳以上では側副血行路の発達が不十分、梗塞範囲拡大しやすい
  • 急性冠症候群の発症様式 - 早朝・冬季に好発、交感神経緊張による血管攣縮と血栓形成
  • 左室梗塞の合併 - 下壁梗塞単独より下壁+右室梗塞で死亡率2〜3倍

右冠動脈の近位部閉塞ほど右室梗塞の範囲が広く、血行動態が不安定となります。迅速な再灌流療法(PCI)により右室機能の回復が期待できます。

注意したい症状

右室梗塞では以下の症状出現時に緊急対応が必要です。

  • 収縮期血圧<80mmHg - 心原性ショック状態、迅速な輸液負荷と昇圧薬投与が必要
  • 意識レベル低下 - 脳灌流低下、心拍出量減少の徴候
  • 冷汗・四肢冷感 - 末梢循環不全、ショックの進行を示唆
  • 尿量減少 - <0.5mL/kg/時、腎灌流低下、ショックの指標
  • 徐脈<50回/分 - 高度房室ブロック合併、一時ペーシングの適応
  • 頻呼吸 - >25回/分、輸液過剰による左心不全または肺塞栓の可能性
  • 頸静脈怒張の増悪 - 右房圧のさらなる上昇、右室機能悪化
  • 新たな雑音の出現 - 心室中隔穿孔(胸骨左縁の大きな汎収縮期雑音)、緊急手術適応

これらの症状は致死的合併症を示唆します。特に低血圧遷延例では心原性ショックへの移行を念頭に、Swan-Ganzカテーテルによる血行動態モニタリング、大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助装置(PCPS)の導入を検討します。

対応の基本

右室梗塞への対応は迅速な再灌流と前負荷維持が基本です。

  • 緊急冠動脈造影とPCI - 発症12時間以内の右冠動脈再灌流で右室機能回復、予後改善
  • 輸液負荷 - 初期に生理食塩水500〜1000mL急速投与、右房圧15〜18mmHg目標
  • 硝酸薬・利尿薬の回避 - 前負荷減少で血圧低下、原則禁忌
  • 昇圧薬 - 輸液に反応しない低血圧にはドブタミン(β1刺激で心収縮力増強)を使用
  • 房室ブロックへの対応 - 完全房室ブロック合併時は一時ペーシング、右室ペーシングより両室ペーシングが望ましい
  • 抗血小板薬 - アスピリン、P2Y12阻害薬(クロピドグレル、プラスグレル)
  • 抗凝固療法 - ヘパリン持続静注、発症後48時間は厳重監視
  • 心房細動への対応 - 心房収縮回復のため電気的除細動を考慮、心拍出量改善
  • 機械的循環補助 - 心原性ショック遷延例でIABPまたはPCPS導入
  • リハビリテーション - 血行動態安定後48〜72時間で段階的離床、右室リモデリング予防

右室梗塞では輸液反応性が良好なことが特徴で、適切な輸液により多くの症例で血圧が安定します。ただし左室機能も低下している場合は肺うっ血に注意し、中心静脈圧・肺動脈楔入圧をモニタリングします。

ひとことで言うと

右室梗塞は右冠動脈閉塞により右室が壊死し、低血圧・頸静脈怒張・肺野清明を呈する病態で、輸液負荷と迅速な再灌流療法が治療の鍵です。

関連用語

  • 急性下壁心筋梗塞
  • 右冠動脈
  • Kussmaul三徴
  • V4R誘導
  • 前負荷依存性
  • 右心不全
  • 房室ブロック

参考文献・出典

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